
従業員が会社の業務を遂行するにあたり第三者に損害を与えた場合、会社が使用者責任を問われることがありますが、第三者への損害賠償を従業員が行った場合、従業員から会社に対して損害賠償を行った分について請求することはできるのでしょうか?
今回は、従業員から会社に対する求償権行使について解説をしていきます。
不法行為と使用者責任

民法は、「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う」として不法行為責任について定めるとともに、「ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う」として会社の使用者責任について定めています。
そのため、従業員が会社の業務を遂行するにあたり、故意または過失により第三者に損害を与えた場合、当該従業員は第三者に対して不法行為責任を負い、会社は第三者に対して使用者責任を負う可能性があります。
会社から従業員に対する求償権行使

従業員の不法行為について会社に使用者責任を負わせる根拠については、会社は従業員を使用することで利益を得ているのであるから従業員が会社の業務を遂行するにあたり第三者に損害を与えた場合には会社にも責任を負担させるべきであるという考え方があります。
他方で、民法は、「(会社が使用者責任を負う場合)使用者又は監督者から被用者に対する求償権の行使を妨げない」とも定めており、会社から従業員に対する求償権行使を認めています。
会社から従業員に対する求償権行使の程度

会社から従業員に対する求償権行使が争われた事案において、最高裁は、「使用者が、その事業の執行につきなされた被用者の加害行為により、直接損害を被り又は使用者としての損害賠償責任を負担したことに基づき損害を被つた場合には、使用者は、その事業の性格、規模、施設の状況、被用者の業務の内容、労働条件、勤務態度、加害行為の態様、加害行為の予防若しくは損失の分散についての使用者の配慮の程度その他諸般の事情に照らし、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において、被用者に対し右損害の賠償又は求償の請求をすることができるものと解すべきである」として、会社から従業員に対する求償権行使に一定の制限をかけています。
従業員から会社に対する求償権行使

従業員が第三者に対して損害賠償を自ら行った場合、従業員は会社に対して求償権を行使できるのでしょうか?
会社から従業員に対する求償権行使については民法において触れられていますが、従業員から会社に対する求償権行使については触れられていません。
この問題が取り扱われた裁判において、裁判所は審級ごとに異なる判断を下しました。
第一審の判断
「使用者責任を負う使用者には、被用者との関係において、報償責任及び危険責任の原理から、実質的な使用者の負担部分の存在を認めることができるというべきである。そうすると、被用者が、このような使用者の負担部分についてまで賠償義務を履行した場合には、使用者に対し求償することができることとなる。なお、不法行為責任を負う被用者に対し、被害者が損害賠償請求することを権利濫用等により制限することは困難であると想定されることからすれば、被用者から使用者への逆求償を認めないと、被害者が使用者に対し請求するか、被用者に対し請求するかの偶然の要素により、使用者と被用者との間の損害の公平な分担が阻害されることになり相当ではない」、「被用者から使用者に対する逆求償をする場合の使用者の負担部分の範囲は、使用者の被用者に対する求償の範囲を信義則に基づき制限する場合に考慮すべき要素と同様の要素を考慮して定めるのが相当」として、従業員から会社に対する求償権行使を認めました。
控訴審の判断
「民法715条1項は、被害者保護のための規定であって、本来、不法行為者である被用者が被害者に対して全額損害賠償債務を負うべきところ、被害者が資力の乏しいこともある被用者から損害賠償金を回収できない危険に備えて、報償責任や危険責任を根拠にして、使用者にその危険回避の負担を負わせたものであって、本来の損害賠償義務を負うのは、被用者である」、「民法715条3項の求償権が制限される場合と同じ理由をもって、逆求償という権利が発生する根拠とまですることは困難」として、従業員から会社に対する求償権行使を否定しました。
最高裁の判断
「民法715条1項が規定する使用者責任は、使用者が被用者の活動によって利益を上げる関係にあることや、自己の事業範囲を拡張して第三者に損害を生じさせる危険を増大させていることに着目し、損害の公平な分担という見地から、その事業の執行について被用者が第三者に加えた損害を使用者に負担させることとしたもの」、「使用者責任の趣旨からすれば、使用者は、その事業の執行により損害を被った第三者に対する関係において損害賠償義務を負うのみならず、被用者との関係においても、損害の全部又は一部について負担すべき場合がある」、「使用者が第三者に対して使用者責任に基づく損害賠償義務を履行した場合には、使用者は、その事業の性格、規模、施設の状況、被用者の業務の内容、労働条件、勤務態度、加害行為の態様、加害行為の予防又は損失の分散についての使用者の配慮の程度その他諸般の事情に照らし、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において、被用者に対して求償することができる」、「使用者の損害の負担について異なる結果となることは相当でない」、「被用者が使用者の事業の執行について第三者に損害を加え、その損害を賠償した場合には、被用者は、上記諸般の事情に照らし、損害の公平な分担という見地から相当と認められる額について、使用者に対して求償することができる」として、従業員から会社に対する求償権行使を認めました。
まとめ

今回は、従業員から会社に対する求償権行使について解説をしてきました。
使用者責任が認められる根拠からすれば業務遂行中に生じた第三者への損害について従業員にすべての責任を負わせることは難しいというのは素直な帰結と思われます。
同様の考えから、求償権が行使された場合の会社と従業員の責任割合については会社の責任割合が大きく判断されることが多くなっています。
先に挙げた最高裁判決でも裁判官の補足意見として、従業員と会社の経済状態等を加味した場合には従業員が負担すべき割合はわずかなものになることが多く、ゼロとすべき場合もあり得るということが述べられており、会社ではそのような考えを前提としたリスク管理を行っておくことが重要になるものと考えます。
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