廃棄物処理法の欠格要件は準用構造により難解です。取締役が交通事故等で禁錮刑を受けたり破産すると、法人の許可も連鎖的に取り消されます。退任時期を問う「60日前ルール」にも注意が必要であり、平時からの役員コンプライアンス徹底が不可欠です。

はじめに〜廃棄物処理法が抱える「読みづらさ」の正体〜

企業法務において、環境関連ビジネスに関わる企業にとって最も重要な法律の一つが「廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下、廃掃法)」です。しかし、この法律を読み解こうとした実務担当者や経営者の多くが、そのあまりの難解さに頭を抱えます。弁護士であっても、初めて廃掃法の条文構造に向き合う際には、その複雑に入り組んだ構造に苦労するほどです。

特に企業にとって「死活問題」となるのが、許可の取り消しに直結する「欠格要件(けっかくようけん)」です。なぜこれほどまでに読みにくいのか。それは、廃掃法特有の「たらい回し(準用)」構造に原因があります。本コラムでは、企業法務の観点から、特に法人許可の根幹を揺るがす「取締役の欠格要件」について、複雑な条文構造を紐解きながら、実務上絶対に知っておくべきリスクと対策を詳しく解説します。

条文のマトリョーシカ~なぜ「取締役の欠格」が「法人の取消し」に直結するのか

産業廃棄物処理業の許可を取得・維持するためには、廃掃法が定める厳格な要件をクリアし続けなければなりません。多くの方が直面する産業廃棄物収集運搬業等の許可基準は、第14条第5項第2号に規定されています。しかし、条文を開くと次のような記載に直面します。

第14条第5項第2号イ

「第7条第5項第4号イからヌまでのいずれかに該当する者」

第14条第5項第2号ニ

「法人でその役員又は政令で定める使用人のうちにイからハまでのいずれかに該当する者があるもの」

このように、産業廃棄物の条文(14条)を読んでいると、突然一般廃棄物の条文(7条)へ飛ばされます。さらに、第7条に飛んだ後も別の号や法律への参照が続くため、まるでマトリョーシカのように条文の中に条文が隠されている状態になります。

そして、上記の「ニ」の規定が極めて重要な意味を持ちます。これは、「法人そのもの」だけでなく「法人の役員(取締役等)」に一つでも欠格事由が生じた場合、法人全体の許可が取り消されるという厳格な「連座制」を定めているのです。

廃掃法は、過去の不法投棄などの歴史的背景から、法人格の背後にいる「自然人」の適格性を極めて重視しています。いくら法人が立派な処理施設を持ち、社内のコンプライアンス体制を整えていても、取締役一人のプライベートな不祥事で、会社のビジネスが即座に停止してしまうのが廃掃法最大の特徴であり、恐ろしい点です。

取締役を失格に追い込む「欠格要件」の徹底解剖

では、大元となる準用先、第7条第5項第4号にはどのような要件が書かれているのでしょうか。実務上、特に取締役個人に発生しやすく、企業の存亡に関わる重大な要件をピックアップして解説します。

心身の故障(イ)

精神の機能の障害により、廃棄物処理の業務を適切に行うに当たって必要な認知、判断及び意思疎通を適切に行うことができない者が該当します。かつては「成年被後見人又は被保佐人」を一律に排除する規定でしたが、令和元年の法改正により、個別に心身の状況を審査し判断する形式に変更されました。

破産手続開始の決定(ロ)

「破産手続開始の決定を受けて復権を得ない者」が該当します。会社の業績とは無関係に、取締役個人が投資の失敗や多重債務等により自己破産をした場合、免責許可決定が確定するなどして「復権」を得るまでの間は欠格要件に該当します。

禁錮以上の刑(ハ)【※実務上、最大のリスク要因】

「禁錮以上の刑に処せられ、その執行を終わり、又は執行を受けることがなくなった日から5年を経過しない者」が該当します。

ここで多くの経営者が誤解している最大のポイントがあります。それは、「廃掃法違反に限らない(すべての法律違反が対象になる)」ということです。

刑法であれ、道路交通法であれ、禁錮刑(懲役刑を含む)を受ければアウトです。例えば、取締役が休日にプライベートで車を運転し、不注意で重大な交通事故を起こして業務上過失致死傷罪で禁錮刑を受けた場合や、飲酒運転で懲役刑を受けた場合、その瞬間に欠格要件に該当します。

また、「執行猶予が付いたからセーフ」というのも大きな誤りです。執行猶予期間中も欠格要件に該当し続けます。執行猶予の期間を無事に満了して初めて刑の言渡しが効力を失い、欠格事由から解放されるのです。

特定の法令違反による罰金刑(ニ)

罰金刑の場合は、禁錮刑とは異なり、「特定の法律」に違反した場合に限り欠格要件となります。具体的には以下の3パターンに大別されます。

環境関連法令

廃掃法、浄化槽法、大気汚染防止法、騒音規制法、水質汚濁防止法など。

暴力団対策法

暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律への違反。

特定の刑法犯等

刑法の傷害罪、現場助勢罪、暴行罪、凶器準備集合罪、脅迫罪、背任罪など。

特に見落としがちなのが「傷害罪・暴行罪」です。取締役が酒席のトラブル等で喧嘩をし、略式起訴で罰金刑を受けただけでも、法人の産廃許可は容赦なく取り消されます。

暴力団員等(暴力団排除条項)(トなど)

暴力団員、または暴力団員でなくなった日から5年を経過しない者は当然に欠格要件となります。廃掃法は反社会的勢力の介入を強く排除する建付けとなっています。

どこまでが「役員」か?〜名ばかり取締役や支店長に潜むリスク〜

欠格要件の連座制の効果が及ぶ「役員」とは、一体どこまでの範囲を指すのでしょうか。

会社法上の「取締役」「監査役」「執行役」が該当するのは当然ですが、廃掃法における役員の解釈はさらに実質的かつ広範です。

みなし役員

たとえ商業登記簿上の取締役でなくとも、「相談役」「顧問」など、いかなる名称を有する者であるかを問わず、法人に対し業務を執行する社員、取締役、執行役又はこれらに準ずる者と同等以上の支配力を有するものと認められる者も「役員」に含まれます。実質的な経営権を握っている人物が裏に隠れていても逃がさないための規定です。

政令で定める使用人

役員のみならず、法第14条第5項第2号ニに規定される「政令で定める使用人」も対象です。これは廃掃法施行令第4条の7において「本店又は支店の代表者」「継続的に業務を行う施設の責任者で、契約締結権限を有する者」と定義されています。つまり、支店長や工場長などの幹部社員が交通事故等で禁錮刑を受けても、法人全体の許可が取り消されるリスクがあるということです。

最悪のシナリオ~一つの取消しが全国に波及する恐怖の連鎖

もし、取締役の一人が欠格要件に該当し、法人の許可が取り消された場合、どのような事態に陥るでしょうか。

事業の停止により顧客との契約不履行が生じるだけでなく、金融機関からの融資において「期限の利益喪失条項」に抵触し、資金繰りが一気にショートする危険性があります。さらに、行政処分は公表されるため、深刻なレピュテーションリスク(風評被害)も免れません。

最も恐ろしいのは、「全国的な連鎖取消し」です。

廃掃法第7条第5項第4号へ(及びル)の規定により、「許可を取り消され、その取消しの日から5年を経過しない者」も新たな欠格要件となります。ある都道府県でA社の許可が取り消されると、A社は「許可を取り消された法人」という欠格要件に該当することになり、他の都道府県で取得している全ての産廃許可も玉突き事故のように次々と取り消されていくのです。

逃げ切りを許さない恐怖の「60日前ルール」と辞任のタイミング

「取締役がプライベートで重大事故を起こしてしまった。会社を守るために、急いで辞任させよう」

経営陣がそう考えるのは自然なことですが、廃掃法は悪質な逃げ切りを防止するための極めて厳格な網を張っています。それが「60日前ルール」です。

法人の許可取消処分が行われる前には、行政手続法に基づく「聴聞(ちょうもん)」の手続きが必ず行われます。廃掃法は、この「聴聞の通知があった日の前60日以内」にその法人の役員であった者についても、法人とともに連帯責任を負わせる仕組みをとっています(法第7条第5項第4号チなど)。

つまり、行政から取消しの気配を察知して、聴聞通知の直前に慌てて役員を辞任したとしても、その個人は「取消しを受けた法人と同等の者」として扱われ、そこから5年間は他社の役員になることも、自ら廃棄物処理業を営むこともできなくなります。

しかし、法人の許可取消しそのものを防ぐ方法が全くないわけではありません。問題を起こした取締役が、欠格要件に該当する前(=例えば、刑事裁判で判決が確定する前)に確実に役員を退任していれば、その判決確定時点において法人は「欠格要件に該当する役員を抱える法人」には当たりません。判決は、地方裁判所で言い渡されても、控訴期間(14日間)が経過するまでは「確定」しません。このわずかな期間を含め、有罪判決が確定するよりも前に、臨時株主総会を開いて対象の役員を解任するか、自発的な辞任を完了させておくことが、会社全体の許可を守る唯一の防波堤となります。

企業法務として講じるべき実践的コンプライアンス対策

ここまで見てきた通り、廃掃法の欠格要件は地雷原のように広範であり、会社に与えるダメージは致命的です。最悪の事態を防ぐため、企業・法務担当者が平時から講じるべき実践的な対策は以下の通りです。

役員・幹部に対する強烈な啓発と教育

「自分の休日のドライブ中の事故が、会社の事業を完全に停止させる」という事実を、全役員および政令で定める使用人に深く理解させる必要があります。飲酒運転の絶対的な撲滅はもちろん、酒席でのトラブル(暴行罪・傷害罪への発展)等、私生活におけるコンプライアンス遵守の徹底を継続的に教育しなければなりません。

就業規則・役員規程の整備と申告義務

「警察の捜査対象となった場合」や「交通事故を起こした場合」には、業務外であっても直ちに会社へ報告することを規程に明記し、義務付けることが重要です。また、年に1回程度、「現在、刑事事件等で捜査を受けていないこと」を確約する誓約書を定期的に提出させる運用も有効です。

有事の際の緊急連絡網と迅速な法務相談体制

万が一、役員が逮捕・起訴されたり重大な事故を起こした場合は、直ちに代表取締役および法務部門に情報が上がる体制を構築します。事案を把握した後は、判決が確定してしまう前に迅速に辞任・解任の決断を下す必要があるため、刑事手続と行政手続の双方に精通した顧問弁護士との連携が時間との勝負を分かちます。

おわりに

廃棄物処理法の欠格要件は、その難解な「準用構造」の奥に、企業の息の根を止めるほど強力なペナルティを隠し持っています。「法律が複雑で読みにくかった」「そんな細かい要件だとは知らなかった」では決して済まされない厳格なルールです。 条文の構造を正確に理解し、事前の予防策を徹底することこそが、環境ビジネスを営む企業にとって最強の盾となります。役員のプライベートな不祥事や、少しでも不安な事象が発生した場合には、手遅れになる前に、環境法務および企業法務に精通した弁護士へ速やかにご相談されることを強くお勧めいたします。

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グリーンリーフ法律事務所は、設立以来35年の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。
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この記事を書いた弁護士:弁護士 平栗丈嗣

廃棄物処理法

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所所属、埼玉弁護士会所属の弁護士。令和2年登録。化学品メーカーでの勤務経験を有し、環境法関連業務や廃棄物対応の実務に直接携わってきた実績を持つ。甲種危険物取扱者の資格も保持し、化学物質や産業廃棄物に関する専門的知見に明るい。現場の運用フローや企業の内部事情を熟知している強みを最大限に活かし、法令遵守と現場実務のバランスを取った実践的な解決策の提案に注力している。