
M&A(企業買収)をおこなう場合、デューディリジェンスといって、買手は売手企業の内容を様々な観点から調査します。今回は、売手企業の「知的財産」について、知的財産デューディリジェンスの意義、目的、チェックポイント、提出を求める資料と質問事項などについて考えてみました。
1 知的財産デューディリジェンスの意義

M&Aでは、買主は売主が保有する資産や負債、契約関係などについてデューディリジェンスを行います。知的財産についても、事業の価値を構成する重要な資産であることから、その内容を十分に調査する必要があります。
知的財産というと、特許権や商標権を思い浮かべるかもしれませんが、実際のM&Aでは、登録された権利だけではなく、ブランド名、店舗ロゴ、ホームページ、商品写真、顧客データベース、ノウハウなど、事業を継続する上で重要な無形資産も調査対象となります。
とくに事業譲渡では、会社そのものを取得する株式譲渡とは異なり、事業に必要な知的財産が当然に承継されるわけではありません。そのため、どの知的財産を譲渡対象とするのかを明確にしておかなければ、買収後に同じブランド名を使用できなかったり、店舗のホームページやSNSを利用できなかったりするおそれがあります。
2 調査の目的

知的財産デューディリジェンスの目的は、大きく四つあります。
第1は、売主が本当にその知的財産を保有しているかを確認することです。例えば、商標権が登録されていても、その権利者が売主ではなく関連会社であることがあります。また、ホームページやロゴを外部の制作会社が作成している場合には、著作権が制作会社に帰属していることもあります。このような場合には、売主は自由に譲渡することができません。
第2は、買収後も継続して使用できるかを確認することです。ライセンス契約に基づいて使用している商標やソフトウェアの場合、契約上、第三者への譲渡が禁止されていることがあります。そのため、契約内容を確認し、必要であればライセンサーの承諾を得る必要があります。
第3は、第三者の権利を侵害していないかを確認することです。売主が使用しているブランド名やロゴが第三者の商標権を侵害している場合には、買収後に使用差止めや損害賠償請求を受ける可能性があります。
第4は、知的財産の管理状況を確認することです。重要なノウハウや顧客情報が適切に管理されていなければ、営業秘密として法的保護を受けられない場合があります。
3 主な調査対象とチェックポイント

まず商標について調査します。
ブランド名、店舗名、ロゴマークなどについて商標登録がされているか、登録名義人は誰か、更新期限が到来していないかなどを確認します。また、実際に使用しているブランド名が登録内容と一致しているかも重要な確認事項です。
次に、著作権について調査します。
ホームページ、ECサイト、商品写真、カタログ、POP広告、ロゴデザインなどについて、誰が制作したのかを確認します。外部のデザイン会社や広告会社が制作している場合には、著作権譲渡契約や利用許諾契約が締結されているかを確認する必要があります。
さらに、ソフトウェアについても調査します。
POSシステム、在庫管理システム、顧客管理システム、勤怠管理システムなどがどのような契約で利用されているか、ライセンス契約を承継できるか、名義変更が可能かを確認します。
また、ドメイン名やSNSアカウントについても確認が必要です。近年では、ホームページやSNSが重要な営業資産となっています。ドメイン名の登録者が誰であるか、Instagram、X、Facebookなどのアカウントを譲渡できるかについても確認しておくべきです。
さらに、顧客情報や営業ノウハウについても調査対象となります。顧客名簿、仕入先情報、販売データ、マニュアルなどについて、秘密管理が適切に行われているかを確認します。
4 売主に提出を求める資料と質問事項

知的財産デューディリジェンスでは、売主に対して必要な資料の提出を求めるとともに、必要に応じて質問を行います。
提出資料としては、商標登録一覧、商標登録証、商標ライセンス契約、著作権譲渡契約、ソフトウェア利用契約、ドメイン一覧、知的財産権一覧などが考えられます。
質問事項としては、例えば次のようなものがあります。
「現在使用しているブランド名、ロゴ、店舗名について第三者から警告を受けたことがありますか。」
「第三者との間で知的財産権に関する紛争、交渉又は訴訟となったことがありますか。」
「第三者からライセンスを受けて使用している知的財産はありますか。」
「事業譲渡後に使用できなくなるブランド名やシステムはありますか。」
これらの質問により、契約書だけでは把握できないリスクを確認します。
5 問題が見つかった場合の対応

知的財産に関する問題が判明した場合には、その内容に応じた対応を検討する必要があります。
例えば、商標権が第三者名義となっている場合には、クロージングまでに名義変更を完了させることを条件とすることが考えられます。
ライセンス契約について承諾が必要な場合には、ライセンサーから事前に承諾を取得することになります。
また、第三者との間で知的財産権侵害の紛争が存在する場合には、表明保証や補償条項を契約書に盛り込み、買主が不測の損害を被らないようにすることが重要です。
6 事業譲渡における留意点

事業譲渡では、知的財産は個別に譲渡の対象としなければ承継されません。そのため、ブランド名、商標、ロゴ、ホームページ、ドメイン名、SNSアカウント、顧客データベースなどについて、何を譲渡対象とするのかを契約書で明確に定める必要があります。
グリーンリーフ法律事務所は、設立以来35年の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。
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この記事を書いた弁護士:代表弁護士 森田 茂夫
M&A
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所所属、埼玉弁護士会会員。早稲田大学法学部卒業。
買手企業、売手企業からの依頼に応じて、M&A仲介業者との仲介契約書、買手企業と売手企業間の基本合意書、株式譲渡契約書などの契約書レビューを行うとともに、契約書、人事労務関係、株式などについてのデューデリジェンスを行っている。迅速かつ正確な対応には定評がある。









