
ある日突然、株主から「経営体制の是正計画」が送られてきたら、経営者はどこまで応じる義務があるのでしょうか。会社法は株主総会と取締役の権限を明確に分けており、株主であることは日常の業務執行に介入する根拠にはなりません。本記事では、株主作成の議事録の効力、役員報酬の適正化要求、株主が取引先を兼ねる場合の危険など、実務で頻出する論点を整理し、受け入れるべき指摘と譲ってはならない一線を弁護士が解説します。
はじめに──ある日突然、株主から「是正計画」が届いたら

中小企業の経営者から、次のようなご相談を受けることがあります。
【こんなお悩みはありませんか】
株主から経営に関する要望書や改善要求を受け取った。 社内の運営方法や支出の在り方まで踏み込んだ指摘があり、 株主側が独自にまとめた記録文書が一方的に送付されてきた。 その株主とは事業上の取引関係もあり、強く反論することがためらわれる。
株主から経営について指摘を受けたとき、多くの経営者は「株主なのだから従わなければならないのではないか」と考えてしまいます。しかし、これは大きな誤解です。
会社法は、株主総会と取締役の権限を明確に分配しています。株主であることは、日常の業務執行に個別に介入する根拠にはなりません。他方で、株主には法律上明確に認められた権利もあり、その行使を無視すれば会社側が不利益を被ります。
本稿では、こうした場面で経営者が押さえておくべき法的な整理と、実務上の具体的な対策を解説します。
第1 株主と取締役の権限分配という大原則

1 株主総会が決められること・決められないこと
取締役会を設置している株式会社では、株主総会が決議できる事項は法律または定款で定められた事項に限られます。
■ 会社法第295条第2項
「前項の規定にかかわらず、取締役会設置会社においては、株主総会は、 この法律に規定する事項及び定款で定めた事項に限り、決議をすることができる。」
株主総会の決議事項として法定されているのは、定款変更、役員の選任・解任、計算書類の承認、剰余金の配当、合併等の組織再編といった、会社の基礎に関わる重要事項です。
逆に言えば、どの取引先とどのような条件で契約するか、社内の管理体制をどう構築するか、従業員をどう配置するかといった日常的な経営判断は、株主総会の決議事項ではありません。
2 業務執行権限は取締役に専属する
会社の業務執行を決定し、実行する権限は取締役(取締役会設置会社では取締役会および代表取締役)に帰属します。
■ 会社法第348条第1項
「取締役は、株式会社(取締役会設置会社を除く。)の業務を執行する。」
■ 会社法第362条第2項第1号(取締役会設置会社)
「取締役会は、次に掲げる職務を行う。 一 取締役会設置会社の業務執行の決定」
つまり、株主が「この取引はやめるべきだ」「この人事は不適切だ」と主張したとしても、それは意見表明にとどまり、法的な拘束力を持ちません。会社が応じるかどうかは、取締役が経営判断として決めるべき事柄です。
この原則を理解しておくことが、過剰な要求に対して毅然と線を引くための出発点になります。
3 中小企業で見落とされがちな例外──取締役会非設置会社
ただし、重要な例外があります。取締役会を設置していない会社では、株主総会の権限が極めて広くなります。
■ 会社法第295条第1項
「株主総会は、この法律に規定する事項及び株式会社の組織、運営、管理その他 株式会社に関する一切の事項について決議をすることができる。」
取締役会非設置会社(会社法施行前の有限会社から移行した特例有限会社を含みます)では、株主総会は会社に関する一切の事項について決議することができます。
これは実務上、極めて重要な意味を持ちます。仮に敵対的な株主が議決権の過半数を保有している場合、その株主は株主総会を開催して業務執行に関する事項を強行的に決議してしまう余地があるからです。
自社がどの機関設計を採用しているのか、株主構成と議決権割合はどうなっているのか。この二点を正確に把握しておくことが、あらゆる対策の前提となります。
第2 株主が作成した「議事録」に法的効力はない

1 議事録の作成義務者は取締役である
株主が独自に議事録を作成し、「これが正式な記録である」として送付してくることがあります。しかし、株主総会議事録の作成義務は、法律上明確に取締役に帰属しています。
■ 会社法第318条第1項
「株主総会の議事については、法務省令で定めるところにより、議事録を作成しなければならない。」 (同条は取締役の職務として議事録作成義務を定めるものと解されています)
株主は、あくまで出資者としての地位を有するにすぎず、会社の機関ではありません。したがって、株主が作成した文書は、法律上の「株主総会議事録」ではなく、その株主が個人的に作成した覚書・記録メモにすぎません。
2 放置することの危険性
「法的効力がないのだから放っておけばよい」と考えるのは危険です。
株主作成の文書に、実際には決議されていない事項が「決議された」かのように記載されていたり、経営者の発言が事実と異なる形で記録されていたりする場合、後日の紛争でその文書が証拠として提出される可能性があります。会社側が長期間何の異議も述べなかったという事実自体が、内容を黙認したという主張の根拠にされかねません。
3 対策──異議通知と正式議事録の確定
株主が独自の議事録を作成・配布した場合は、速やかに書面で異議を述べておくべきです。異議通知には、次の三点を明記することをお勧めします。
- 議事録の作成義務は会社法第318条第1項により取締役に帰属し、株主が作成した文書は法律上の議事録としての効力を有しないこと
- 当該文書には事実と異なる記載が含まれること(可能な限り具体的に指摘する)
- 会社が作成した議事録を唯一の正式な記録とすること
あわせて、実務上留意すべき点として、株主から「議事録の原本を交付せよ」と求められることがありますが、これに応じる法的義務はありません。
会社法第318条第2項により、議事録の原本は会社が本店に10年間備え置くべきものとされており、株主に認められているのは同条第4項の閲覧・謄写請求権にとどまります。原本は会社が1部のみ作成・保管し、株主には「原本と相違ない」旨を付記した謄本を交付する対応が適切です。原本を複数作成すると、後日どちらが正式なものかという新たな紛争の火種となります。
第3 「役員報酬の適正化」要求への向き合い方

株主から「役員報酬が高すぎる、適正水準まで減額せよ」という要求を受けることがあります。特に、経営者の親族が会社に勤務している場合に狙い撃ちされやすい論点です。
1 会社法361条が適用されるのは「取締役の報酬」だけ
■ 会社法第361条第1項(抜粋)
「取締役の報酬、賞与その他の職務執行の対価として株式会社から受ける財産上の利益 についての次に掲げる事項は、定款に当該事項を定めていないときは、 株主総会の決議によって定める。」
この規定が対象とするのは、あくまで「取締役としての報酬」です。登記上の取締役でない者への支払いについては、同条は適用されません。
2 税務上の「みなし役員」と会社法上の役員は別物
ここで実務上よく混同が生じます。顧問税理士から「みなし役員に該当するため、報酬改定は役員と同時期に行い、賞与は支給しないように」と指導を受けているケースです。
しかし、税務上の「みなし役員」は、あくまで法人税法上の損金算入ルールの問題です。税務上みなし役員として取り扱われていることを根拠に「会社法上も役員であるから株主総会で報酬を決議できる」という論理は成り立ちません。この二つは全く別の制度です。
3 従業員給与の減額には本人の同意が必要
経理事務や営業事務に従事し、実質的に労働の対価として給与を受け取っているのであれば、それは会社法上の「役員報酬」ではなく「従業員給与」です。
従業員の給与水準は労働契約の内容であり、株主総会が決議によって一方的に変更する権限は会社法上認められていません。減額するには、原則として本人の同意(労働契約法第9条)が必要です。
★ 回答の組み立て方
「当該支払いは取締役としての報酬ではなく、従業員としての給与です。 したがって会社法第361条の規律対象外であり、株主総会が従業員の給与水準を 決議・強制する権限はありません。減額には本人の同意が必要となります。」 このように、法的な位置づけを明確にしたうえで回答することが重要です。 なお、金額の妥当性については、労務の実態(勤務時間・職務内容・責任範囲)を 客観的に説明できる資料を整えておくことが、実務上の備えとなります。
第4 株主が取引先を兼ねるときの危険

中小企業では、主要な取引先の経営者が自社の株主でもあるという構造が珍しくありません。この構造は、平時には強固な協力関係として機能しますが、ひとたび利害が対立すると、極めて厄介な問題を生みます。
1 利益相反取引規制の正しい理解
会社と取締役個人との間で行われる取引は、利益相反取引として承認が必要になります。
会社法第356条第1項第2号(抜粋)
「取締役が自己又は第三者のために株式会社と取引をしようとするとき」 → 取締役会(非設置会社では株主総会)において、 当該取引につき重要な事実を開示し、その承認を受けなければならない。
例えば、代表取締役が個人所有する不動産を会社に賃貸している場合、これは典型的な利益相反取引に該当します。契約書を作成しているかどうかは問題ではなく、承認手続を経ているかどうかが問われます。
もっとも、これは「取引をしてはならない」という意味ではありません。適正な手続を履践し、取引条件が客観的に合理的であることを説明できれば、何ら問題はありません。逆に、手続を欠いたまま放置していると、株主から追及される格好の材料を与えることになります。過去に手続を経ていなかった場合は、速やかに取締役会(または株主総会)で追認決議を行い、議事録として記録に残しておくべきです。
2 取引条件の一方的押し付けと優越的地位の濫用
株主でもある取引先から、取引条件の変更を一方的に求められることがあります。たとえば、従来は取引先が負担していた配送費用を、こちらの負担に切り替えるよう要求されるといったケースです。
このような場面では、下請代金支払遅延等防止法(下請法)や独占禁止法上の優越的地位の濫用が問題となり得ます。
■ 下請法第4条第2項第3号(抜粋)
親事業者は、自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させることにより、 下請事業者の利益を不当に害してはならない。
■ 独占禁止法第2条第9項第5号(優越的地位の濫用)
取引上の地位が相手方に優越していることを利用して、正常な商慣習に照らして 不当に、取引の条件を設定し、又は変更すること。
もちろん、大切な取引先に対して直ちに法的措置を検討するのは現実的ではありません。しかし、法的な位置づけを正確に理解しておくことは、交渉の場で「当社としても負担の合理性について社内で検討する必要がある」と正当に主張するための裏付けになります。
重要なのは、費用負担の変更を求められた際に、その場で安易に応諾しないことです。試算に基づく具体的な数字を示し、負担割合について正式な協議を申し入れる姿勢を示すことが、実務上の防御線となります。
3 「株主の立場」と「取引先の立場」を混同させない
相手方は、しばしば二つの立場を意図的に混同させてきます。株主としての発言力を背景に取引条件を有利にしようとし、逆に取引先としての立場を背景に経営への介入を正当化しようとするのです。
会社としては、両者を明確に切り分けて対応する必要があります。株主としての要求は株主総会という正式な場で、取引先としての要求は取引条件の交渉という場で。それぞれ別のテーブルで扱うことを明示することが、混同による不利益を防ぎます。
第5 「事前承認の仕組み」を約束してはいけない理由

株主から「今後、重要な取引については事前に当社の承認を得ること」「一定額以上の支出は事前に報告すること」といった仕組みの制度化を求められることがあります。
ガバナンス改善という言葉で提案されるため、応じてしまいそうになりますが、これは慎重に判断すべきです。
1 機関設計の外側に置かれる仕組みの危険性
前述のとおり、業務執行権限は取締役に帰属します。特定の株主が日常的・個別的に事前承認を与える仕組みは、会社法が予定する機関設計の外側にある取決めです。
仮に取締役会非設置会社であり、株主総会が一切の事項を決議できるとしても、それは「株主総会という正式な場で決議する」ことを意味するのであって、一株主が日常的に承認権を行使する仕組みとは全く異なります。
2 経営の機動性が失われる実務上のリスク
実務的な観点からも問題があります。株主が承認を遅らせたり、拒否したりすることで、会社の日常的な業務執行が事実上停止するリスクを抱え込むことになるからです。
経営には迅速な意思決定が求められる場面が多くあります。外部の株主による事前承認を条件とする仕組みは、経営の機動性を著しく損ないます。
さらに、その株主が取引先を兼ねている場合には、自社の重要な経営情報や取引情報が競合関係にある相手に事前に流れる状態を制度として固定することになり、情報管理の観点からも看過できません。
ガバナンス改善の必要性を認めること自体は問題ありません。しかし、それは社内の決裁体制として設計すべきであって、株主への事前承認制度として組み立てるべきではありません。この違いを意識して回答することが重要です。
第6 対策編──今日から始める4つの備え

1 定款と機関設計の点検
自社が取締役会設置会社か非設置会社か、株主構成と議決権割合はどうなっているか、定款に議長の定めや相続人等に対する株式売渡請求(会社法第174条)の規定があるか。これらを正確に把握することが、あらゆる対策の前提です。
特に譲渡制限株式を発行している場合、株式の移転が取締役会の承認を要するのか否かの整理は、敵対的株主対策として不可欠です。
2 議事録・稟議・決裁体制の整備
株主から管理体制の不備を指摘された場合、最も有効な反論は「既に改善に着手し、機能している」という事実を示すことです。
顧問税理士や中小企業診断士などの専門家の関与を得て体制を構築し、その経緯を記録として残しておけば、一定の猶予期間を求める正当な根拠になります。指摘を全面的に否定するのではなく、改善の実績を示しながら効果検証の時間を求めるという姿勢が、実務上は最も現実的です。
3 関連当事者取引の可視化と手続の履践
役員個人や親族との取引、関連会社との取引については、承認手続を経たうえで、取引条件の合理性を説明できる資料(近隣相場の資料、複数社の見積り等)を整えておくべきです。
手続を経ていること自体が、株主からの追及に対する最も強力な防御になります。
4 「協議」と「決議」を混同させない議事運営
株主との話し合いの場において、その場で結論を出さないという判断は極めて重要です。
議事録に「確認した」「合意した」という表現が多用されると、後日それが拘束力ある合意の証拠として用いられる危険があります。回答を留保する場合は、議事録に「引き続き検討のうえ、別途書面にて回答する」旨を明記し、協議と決議を明確に区別しておくべきです。
また、会議の場で「これまでのやり方が不適切だった」といった反省の弁を述べた場合、それが議事録に記載されると、過去の経営行為の不当性を自認したものとして扱われる可能性があります。誠実な姿勢を示すことと、法的に不利な自認をすることは別問題です。議事録の記載内容は必ず確認し、必要に応じて中立的な表現に改めるよう求めてください。
おわりに──受け入れるべき指摘と、譲ってはならない一線

株主からの指摘の中には、確かに耳を傾けるべき内容が含まれていることもあります。管理体制の不備、手続の欠落、記録の不十分さ。これらは指摘の当否を離れて、会社自身のために改善すべき事柄です。
他方で、法律上の根拠なく経営権そのものを侵食しようとする要求に対しては、明確に線を引かなければなりません。一度譲歩してしまえば、それが前例となり、要求は際限なく拡大していきます。
この線引きは、感情や力関係ではなく、会社法という共通のルールに基づいて行うべきです。「応じられません」ではなく「会社法上、株主総会の決議事項ではありませんので、取締役会の判断事項として検討いたします」と述べること。この違いが、健全な緊張関係を保ちながら経営を守ることにつながります。
株主との関係に悩まれている経営者の方は、対立が深刻化する前の早い段階で、企業法務に精通した弁護士にご相談ください。初期の対応を誤らなければ、多くの局面は交渉によって解決可能です。
グリーンリーフ法律事務所からのメッセージ

私たちは、開所以来35年以上、企業法務・会社法の問題にお悩みの方に一貫して寄り添って参りました。会社法という法律問題に関し、ご相談者、ご依頼者がより充実した日常を取り戻していただくために、法的な専門知識と経験を活かして、全面的にサポートいたします。あなたの未来への不安を解消し、前を向くきっかけ作りをお手伝いさせてください。お客様満足度は92.9%となっており、多くのお客様にご満足いただいております。私たちの持てる知識と経験を活かして、みなさまの明日が少しでも明るいものになるように親身に寄り添い、真剣に対応させていただきます。まずはグリーンリーフ法律事務所にご相談ください。
グリーンリーフ法律事務所は、設立以来35年の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。
企業が直面する様々な法律問題については、各分野を専門に担当する弁護士が対応し、契約書レビューも特定の弁護士が行います。このような専門性により、企業法務において大きな強みを持っています。企業法務を得意とする法律事務所をお探しの場合、ぜひ、当事務所との顧問契約をご検討ください。
※ 本コラムの内容に関するご質問は、顧問会社様、アネット・Sネット・Jネット・保険ネット・Dネット・介護ネットの各会員様のみ受け付けております。
この記事を書いた弁護士:弁護士 時田 剛志
会社法
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所所属、埼玉弁護士会所属の弁護士。
平成27年12月登録後、企業からの会社法に関する質問対応を担当し、顧問先を中心に多くの企業の法務をサポート。株主総会の準備・運営や招集手続、役員の責任の訴訟といった会社法分野に関わり、常にメール・電話・オンラインを活用した顧問先からの質疑に対応。社内不正やハラスメント事案などの社内調査にも力添えし、事実調査の方針設計からヒアリング、再発防止策の提言まで一貫して対応。力強い交渉と柔軟な解決策を武器にしており、企業向けセミナーでの講演実績もあり、平時の予防法務から有事の紛争対応まで、企業経営を法的側面から幅広く支援する。






