紛争の内容
ご相談は、当事務所が顧問を務める法人からの一報でした。運営する施設内で事故が発生した、という緊急の連絡です。

こうした場面で、組織はいくつもの問いに同時に直面します。何が起きたのか。なぜ起きたのか。誰かに落ち度があったのか。被害を受けた方やご家族にどう説明するのか。行政や関係機関への報告は必要か。そして、同じことを二度と起こさないために何をすべきか。

しかし現実には、これらを冷静に整理する余裕は、事故直後の現場にはありません。担当者は動揺し、関係者の記憶はまだ整理されておらず、それでいて説明を求める声だけは早くから寄せられます。ここで初動を誤ると、後になって取り返しがつかなくなります。記録が残されないまま時間が過ぎれば証拠は失われ、関係者への聞き取りを場当たり的に行えば記憶が混ざり合って事実がわからなくなる。何より、事実関係が固まらないうちに断定的な説明をしてしまえば、後に説明を覆さざるを得なくなり、組織そのものの信頼が損なわれます。

顧問先としては、事故そのものへの対応と並行して、組織として何が起きたのかを正確に把握する必要がありました。そこで当職は、組織内調査の設計と実施を支援することとなったのです。

交渉・調停・訴訟等の経過
当職がまず取り組んだのは、調査の枠組みを定めることでした。組織内調査は、思いついた順に関係者へ話を聞いていけばよいというものではありません。何を明らかにするための調査なのか(調査目的)、どこまでを対象とするのか(調査範囲)、誰が調査主体となるのか、そして調査結果をどう扱うのか。これらを最初に決めておかなければ、調査は途中で迷走し、結論の信頼性そのものが揺らぎます。当職は、顧問先と協議しながら、この枠組みを明文化していきました。

次に着手したのが、証拠の保全です。事故の記録、施設内の状況を示す資料、関係者が作成した書面や日報、そして関係する記録類。これらは、時間の経過とともに散逸し、あるいは上書きされていきます。当職は、まず何を確保すべきかを整理し、速やかに保全するよう助言しました。調査において最も悔やまれるのは、後になって「あの記録さえ残っていれば」という事態です。

そのうえで、関係者からの聞き取りを設計しました。誰から、どの順番で、何を尋ねるのか。聞き取りの順序ひとつで、得られる情報の質は大きく変わります。また、聞き取りに際しては、対象者に対して不利益な取扱いをしない旨を伝えること、内容の記録方法をあらかじめ定めておくこと、そして誘導的な質問を避けることなど、後に調査の公正さが問われても耐えられる進め方を徹底しました。組織内の調査は、身内で行うがゆえに「甘い」と見られやすい面があります。だからこそ、手続の適正さを外形的にも担保しておく必要があるのです。

聞き取りを通じて集まった情報は、それ自体では事実ではありません。関係者の記憶は食い違うのが通常であり、そこには思い込みや、無意識の自己防衛も混ざります。当職は、それぞれの供述を客観的な資料と突き合わせ、時系列に沿って整理し、何がどこまで認定できるのかを丁寧に切り分けていきました。認定できる事実、可能性はあるが断定できない事項、そして不明のまま残る点。この区別を曖昧にしないことが、調査報告の信頼性を支えます。

そして最後に、再発防止策の検討です。ここで当職が意識したのは、個人の責任追及に終わらせないという点でした。事故の背景には、たいてい仕組みの問題が潜んでいます。特定の担当者を責めて幕引きを図れば、その場は収まっても、同じ構造は残り続けます。当職は、認定された事実から浮かび上がる構造的な課題を指摘し、現場で実際に運用できる形での改善策を提言しました。

本事例の結末
こうした一連の支援により、顧問先は、事故の経緯と背景を組織として正確に把握することができました。事実関係が整理されたことで、被害を受けられた方やご家族への説明も、関係先への報告も、一貫した内容で行うことが可能になりました。説明が二転三転するという、信頼を最も損なう事態を避けられたのです。

また、調査を通じて明らかになった構造的な課題については、具体的な改善策として組織に落とし込むことができました。事故という不幸な出来事を、組織の体制を見直す契機とすることができたわけです。

顧問弁護士として日頃から組織の実情を把握していたことも、この案件では大きく働きました。有事にゼロから関係を築くのではなく、平時からの信頼を土台に、迅速に動くことができたからです。

本事例に学ぶこと
まず強調したいのは、初動がすべてを左右するということです。事故や不祥事が起きたとき、最初の対応を誤れば、証拠は失われ、リスクは一気に広がります。「まず落ち着いて事実を確認しよう」と言うのは簡単ですが、混乱のさなかでそれを実行するには、あらかじめ手順を知っているか、外部の専門家が入るかのいずれかが必要です。

次に、調査は設計が命だということです。目的、範囲、主体、結果の取扱い。これらを最初に定めておかなければ、調査は迷走し、せっかく時間をかけても結論の信頼性が得られません。とりわけ組織内で行う調査は、公正さを疑われやすい立場にあります。だからこそ、手続の適正さを外形的にも示せる形で進める必要があります。

そして、事実の認定には切り分けが欠かせません。関係者の記憶は食い違うのが当然であり、集まった情報をそのまま並べても事実にはなりません。認定できることと、できないこと。この境界を曖昧にしたまま報告をまとめれば、後に必ず綻びます。

さらに、再発防止は個人の責任追及とは別物です。担当者を処分すれば問題が解決するわけではありません。背景にある仕組みの問題に手をつけなければ、同じことは繰り返されます。

最後に、こうした有事の対応こそ、顧問弁護士の存在が生きる場面だということです。平時から組織の実情を知る弁護士がいれば、事が起きたときに一から説明する手間を省き、すぐに動き出すことができます。逆に、問題が大きくなってから初めて弁護士を探すのでは、対応が後手に回りかねません。

施設や事業所で事故が起きたとき、社内で不正やハラスメントの疑いが生じたとき、どう対応すべきか迷われる場面は必ず訪れます。そのときのために、平時からご相談いただける関係を築いておくことをお勧めします。組織内調査や顧問契約についてお考えの方は、グリーンリーフ法律事務所にお気軽にお問い合わせください。私たちは、平時の予防から有事の対応まで、企業や法人の皆様を法的側面から支えてまいります。

弁護士 時田 剛志