
車の燃費向上・次世代型車両の普及や原油価格の高騰、地方部での人口減少などを背景に、現在ガソリンスタンドの閉鎖が相次いでいます。本稿では、相次ぐ閉鎖の理由とガソリンスタンド経営会社が破産する場合の注意点について、弁護士が解説します。
閉鎖が相次ぐガソリンスタンド

以前給油に立ち寄ったガソリンスタンドが、しばらく後に行くと、すでに閉鎖されていて給油できなかったという経験はないでしょうか。
また、地方の街道沿いを走っていると、閉鎖したガソリンスタンドが目に付くようになりました。
かつて1990年代後半には全国で6万店を超えていたガソリンスタンドですが、現在ではその半数以下の3万店を割り込む水準にまで減少しています。
地域のインフラとして重要な役割を担いながらも、なぜこれほどまでに経営が行き詰まる事業者が後を絶たないのでしょうか。
本稿では、ガソリンスタンドの経営が厳しくなっている理由を紐解くとともに、実際に事業継続が困難となり、法人破産を選択せざるを得なくなった際に、経営者が直面するガソリンスタンド特有の注意事項と、その対応策について解説していきます。
ガソリンスタンドの経営が厳しくなっている理由

ガソリンスタンドの閉鎖が相次いでいる背景には、単なる景気の波だけではなく、業界を取り巻く「構造的・不可逆的な変化」が複雑に絡み合った問題があります。
その中で主な理由を挙げるとすると、以下の5点に集約されます。
理由① 自動車の燃費向上と次世代自動車(EV・PHEV)の普及
最大の要因は、ガソリンの国内需要の絶対的な減少です。
過去20年の間に、ハイブリッド車をはじめとする自動車の燃費性能は飛躍的に向上しました。
例えば、かつては週に1回給油に来ていた顧客が、月に1〜2回の来店で済むようになったのですから、当然、ガソリンスタンドの収益は減少します。
さらに、近年では、脱炭素(カーボンニュートラル)が世界的な潮流となっています。
この流れを受けた電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車(PHEV)の開発と普及が、ガソリンスタンドに来店する顧客の数そのものを減少させています。
これまでのガソリンスタンドが依存してきた、燃料の販売量(=来店頻度と販売単価)に頼るビジネスモデルは、今後成り立たなくなる可能性があります。
理由② 人口減少・高齢化と「車離れ」
我が国では、出生率の低下と人口減少が社会問題化して久しいですが、これらが特に顕著に表れているのが地方部です。
地方では車は生活必需品ではあるものの、人口減少と高齢化が進んだ結果、ドライバーの数自体も減っています。
これに対し、都市部では、カーシェアリングの普及や維持費の高騰により、特に若年層を中心に「車離れ」が進んでいます。
そのため、商圏内の絶対的な顧客数が減少し、ガソリンスタンドは限られたパイを近隣店舗と奪い合う消耗戦に陥っています。
理由③ 消防法改正に伴う地下タンク改修問題(多額の設備投資)

多くの老舗ガソリンスタンドが頭を悩ませているのが、設備老朽化の問題です。
2010年の消防法改正により、埋設から40年以上経過した地下タンクに対して、腐食防止のための改修(FRP内面ライニング施工など)や交換が義務付けられました。
この改修費用や、タンクを入れ替えるための設備投資には、数百万円から数千万円規模の資金が必要となります。
それでなくとも利益率が低下している中、零細企業では金融機関から新たな融資も引き出しにくいのが現状です。
地域住民の生活を支えるインフラとして長年頑張ってきたガソリンスタンドであっても、「これほど多額の投資をしても、今後それらを回収できるだけの売上見込みが立たない」として、改修期限を機に事業を畳む決断をする経営者が後を絶ちません。
理由④ 原油価格の高騰と価格転嫁の難しさ(薄利多売の限界)
昨今の不安定な世界情勢のもと、原油価格の高騰や円安のあおりを受け、ガソリンの仕入れ価格は急激に上昇しています。
経営者としては、仕入れ価格の上昇分を販売するガソリンの価格(店頭小売価格)に転嫁したいところですが、なかなかそうすることもできません。
激しい価格競争の中で、「1円でも安いスタンドでガソリンを入れたい」という消費者の節約志向は非常に強く、自分の店だけ値上げをすれば瞬く間に客足が遠のいてしまいます。
このように、仕入れ価格の上昇分を適切に価格転嫁することができず、結果として、燃料販売の利幅(マージン)は極めて薄くなります。
洗車や車検、タイヤ販売など、給油以外の収益で稼げない店舗は、資金繰りが急速に悪化していく傾向にあります。
理由⑤ 深刻な人手不足と後継者問題
ガソリンスタンドは労働集約型の産業ですが、少子化や他業種との賃金競争により、アルバイトや危険物取扱者の資格を持つスタッフの確保が非常に困難になっています。
人手不足を解消すべく賃金を上げて募集をすると、人件費の高騰がそれでなくとも減りつつある利益をさらに圧迫します。
また、経営者自身の高齢化が進む中、業界全体の先行きが見通せないことから、「自分の子供にはとても跡を継がせられない」と判断し、黒字であっても自主廃業を選ぶ方もいらっしゃいます。
法人破産の手続を進めるうえで特に注意すべき点とその対応策

「店を回しながら、金融機関への融資返済や取引先への支払いをこれ以上続けていくことはできない」
資金繰りが限界に達し、債務超過の状態にある場合には、ガソリンスタンドも他業種同様、裁判所に法人破産の申立てを行うことができます。
ただし、ガソリンスタンドの破産手続は他の業種の法人破産よりも格段に難易度が高くなります。
それは、ガソリンスタンドであるがゆえの特殊性に基づくもので、端的に言うと残された資産が「負の遺産」になりやすいためです。
以下に、ガソリンスタンドを経営する会社が法人破産する場合に、特に注意すべき点とその対応策を解説します。
注意点① 最大の障壁「地下タンクの処理」と「土壌汚染対策」
ガソリンスタンドの破産手続において、最も厄介かつ高額な費用が発生するのが「地下タンクの処理」と「土壌汚染対策」です。
通常、破産会社が所有する不動産に価値がない場合、破産管財人はその不動産を財団放棄(破産財団から切り離すこと)して手続を進めます。
そのような不動産は売却することができず、債権者への配当原資となる見込みがないためです。
しかし、破産会社が経営していたのがガソリンスタンドである場合、破産管財人は換価価値がないからといって、不動産を簡単に財団から放棄するわけにはいきません。
地下に油が残ったタンクや、土壌汚染の可能性がある土地をそのまま放置することは、消防法や土壌汚染対策法などの観点から許されないからです。
有害物質が近隣に漏れ出す危険があるため、管財人は安易に財団放棄できず、タンク内の油の抜き取り、清掃、砂詰め(または撤去)、さらには土壌調査・浄化を求められる可能性があります。
これらの処理には多額の費用(数百万円〜数千万円)がかかるため、裁判所に納める予納金が通常の法人破産事件よりも極めて高額になる傾向があります。
【対応策】
最大の障壁である「地下タンクの処理」と「土壌汚染対策」に対する対応策は、多額の予納金原資を手元に残しておくことに尽きます。
上記のとおり、これらの処理と対策には数百万~数千万円の費用がかかるのですから、経営者は完全に資金が枯渇する前に(現預金が残っている段階で)弁護士に相談し、破産申立ての準備に入るようにしなければなりません。
ぎりぎりまで経営を続けてしまい、会社の手持ち資金がゼロになってからでは、タンクの安全処理費用や裁判所への予納金が払えず、破産申立を弁護士に依頼すること自体ができなくなる恐れがあります。
事前にどの程度の費用がかかるのか専門業者に見積もりを依頼し、それらの処理対策費用と、裁判所に別途納める予納金、申立を依頼する弁護士に支払う費用は確保しておきましょう。
また、申立前の段階で、最低限の危険除去(タンク内の燃料の完全抜き取りや清掃)だけでも自社の資金で行っておくのも、一つの方法です。
注意点② 危険物(残燃料)の適正処理

ガソリンスタンドが営業を停止した瞬間に、地下タンク内に残っているガソリンや軽油、灯油、廃油などは「危険物」または「産業廃棄物」となります。
これらを放置して経営者が夜逃げ同然に姿を消すようなことがあれば、大事故や環境破壊につながり、経営者個人に刑事罰や莫大な損害賠償請求が及ぶ可能性があります。
【対応策】
営業停止日(いわゆるXデー)をあらかじめ設定し、その日に向けて在庫の燃料をできる限り売り切るよう調整します。
営業停止の時点で残ってしまった燃料については、元売り会社や専門の処理業者に適正な引き取り・処分を依頼する手筈を、事前に整えておく必要があります。
注意点③ 元売り会社との契約関係の処理(ポールサイン・看板の撤去)
【注意事項】
多くのガソリンスタンドが該当すると思われますが、特約店として大手石油元売り(ENEOS、出光など)の看板(ポールサイン)を掲げて営業していた場合、破産に伴って元売り会社とのフランチャイズ契約や特約店契約は解除されます。
これらの継続的契約が解消されると、元売り会社はブランドイメージの毀損を防ぐため、商標の使用停止やポールサインの撤去、店舗のイメージカラーの消去(白塗りなど)を求めてきます。
この撤去・改修作業にも数百万円の費用がかかるのが通例です。
【対応策】
ポールサインの撤去費用を誰が負担するか(破産財団から出すのか、元売りが自費で撤去するのか)は、契約内容や管財人の判断によって分かれます。
経営者としては、フランチャイズ契約や特約店契約に定められている「契約終了時の原状回復義務」に関する条項を予めよく確認し、撤去・改修費用を負担するのはどちらなのか、費用を負担するのが元売り会社の場合は未払いの買掛金と相殺できないかなど、依頼する弁護士とともに十分に検討しておく必要があります。
契約書を確認した結果、破産会社が費用を負担しなければならない場合には、注意点①と同様、撤去・改修費用を賄えるだけの資金を確保しておく必要があります。
注意点④ リース物件(洗車機・計量機・POSレジ等)の処理
ガソリンスタンドには、給油計量機、大型洗車機、POSシステム、整備用リフトなど、多額のリース物件が存在します。
破産申立に向けて弁護士が介入すると、リース会社は自社の所有権に基づいてこれらの物件の引き揚げ(返還)を求めてきます。
ところが、地下タンクと連動している計量機などは取り外しが容易ではなく、解体・撤去費用を巡って管財人とリース会社間でトラブルになることがあります。
【対応策】
事前に、どの機材が自社所有で、どれがリース物件(あるいは所有権留保の付いている物件)であるかをリストアップし、申立代理人弁護士に正確に伝えておくことが重要です。
正確な情報を弁護士に伝えておくことで、弁護士は、営業停止後に速やかにリース会社に通知し、敷地内への立ち入りと撤去作業をスムーズに行えるよう調整することができます。
ガソリンスタンドの破産申立ては是非弁護士に相談を

それまで地域密着で経営してきたガソリンスタンドが、財政難を理由に営業を停止し、破産申立てを決断することは大変つらいことです。
その地域に欠かせないインフラとして、長年、周辺住民の生活を支えてきたという自負もおありのことと思います。
しかしながら、先に述べたとおり、ガソリンスタンドを経営する会社の法人破産には、その特殊性から、他業種の法人破産と比べて多額の費用がかかります。
危険物の処理、環境保全、特殊な設備の撤去など、事業を安全に終わらせるために、莫大なコストと専門的な知見が要求されます。
資金や資産が完全に枯渇してしまってからでは、破産申立てのための費用すら工面できず、かえって関係者の方々に迷惑をかけてしまいます。
経営状況に限界を感じた際は、手元に事業を安全に畳むための資金が残っているうちに、法人破産に精通した弁護士に相談・依頼することが肝要です。
適時に、適切な判断をすることで、関係者にかける迷惑を最小限に抑えながら、事業を閉じることは可能です。
ガソリンスタンドの経営者で、破産申立てをお考えの経営者の方は、一度、我々弁護士に相談して下さい。
当事務所では、これまで多くの法人破産の申立てをお手伝いしてきました。
経験豊富な弁護士がサポート致しますので、一人で悩まずに、是非お声掛けいただければと思います。
グリーンリーフ法律事務所は、設立以来35年の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。
また、各分野について専門チームを設けており、専門チームの弁護士は、各担当分野について知識・経験とも豊富で、大きな強みを持っています。まずは、一度お気軽にご相談ください。
この記事を書いた弁護士:弁護士 田中 智美
法人破産
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所所属、埼玉弁護士会所属の弁護士。
平成20年登録後、個人の債務整理にとどまらず、数多くの法人破産の申立てを手掛ける。埼玉県内に本社を有する法人だけでなく、近隣都県の法人の申立てに対応。負債総額、債権者数、従業員数、支店の数などが多数にのぼる大型案件についても実績があり、裁判所の運用や処理にも精通している。






