
退職者のマイナンバーは即時廃棄せず、関係法令が要求する保存義務に合わせて保管します。期間満了後はシュレッダーや専用ソフト等で復元不能な形で速やかに消去し、廃棄日時や方法等の記録を残すことで、漏えい等のリスクは限りなく低くなります。
第1 マイナンバー法(番号法)に関する基礎知識

マイナンバー法(正式名称:行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律)は、平成25年に成立した法律です。
マイナンバー法や番号法と呼ばれています。
この法律ができた背景としては、マイナンバーにより国民の正確な所得把握が可能となり、社会保障や税の給付と負担の公平化が図られることや、社会保障や税に係る各種行政事務の効率化が図られること、各種申請の際に多くの場面で添付書類(住民票など)が不要となるといった国民の利便性などがありました。
平成28年には、国の機関として個人情報保護委員会が設立され、行政機関や事業者等、特定個人情報の取扱者に対して、必要な指導や助言、報告徴収・立入検査をおこなっています。また、法令違反があった場合には、勧告や命令等を行うことがあります。
第2 マイナンバーとは

1 マイナンバーはどのような数字?
マイナンバー(個人番号)は、日本国内に住民票を持つすべての人に割り当てられた、12桁の識別番号です。
この番号は、原則として一生変わりません。
また、12桁の数字はランダムに割り振られており、性別や生年月日などの情報は含まれていません。
2 導入の経緯
マイナンバーが導入される以前は、年金は「基礎年金番号」、税金は「納税者番号」、健康保険は「保険証番号」といったような、省庁ごと(制度ごと)に別々の番号が付されていました。
これを共通の1つの番号に紐付けることで、行政の無駄を省き、手続きの簡素化や公平な納税・給付がなされる社会を実現することを目的としています。
3 マイナンバーカードとは
マイナンバーカードとは、マイナンバーが記載された顔写真付きの「プラスチックカード」のことです。
マイナンバー自体は、本人の意思にかかわらず付与されるのに対して、マイナンバーカードは、申請手続きをすることで取得するものになります。
第3 「退職したらすぐ消す」は、実は間違い?

企業にとって、従業員の雇用や退職に伴う事務手続きは日常的に発生するものです。その中でよくある疑問として、「社員が退職したら、トラブル防止のためにマイナンバーもすぐに削除・廃棄しなければならないのでしょうか?」というものが挙げられます。
「雇用関係が終わったのだから、余計なトラブル(漏えい等)を防ぐためにも、一刻も早くデータを消去したり、提出書類をシュレッダーにかけたりした方が安全なのではないか」と考えがちです。しかし、結論から申し上げますと、退職した職員に関しては、拙速にマイナンバーを破棄してはならない、というのがマイナンバー法の重要なポイントです。
1 関係書類の保管期間が重要
退職した従業員のマイナンバーについて、最も重要な基本ルールは「マイナンバーそのものの有効期限ではなく、関係法令で保管が義務付けられている書類の保存期間に連動する」という点です。
マイナンバー法(番号法)では、社会保障や税、災害対策に関する特定の行政事務処理に必要な場合(法令で定められた範囲)を除き、マイナンバーの保有・保管を禁じています。しかし、会社が従業員を雇用している間、そして退職した後も、税金や社会保険に関する様々な書類を作成・保存することが各種法律によって義務付けられています。
したがって、「それらの関係書類を法的に保存しなければならない期間中」は、マイナンバーも保管し続けることになります。
2 具体的に何年間保管すればいいのか?
具体的に、何年間保管しておけばよいのでしょうか。
代表的な書類の法定保存期間を整理すると、以下のようになります。
源泉徴収票、扶養控除等申告書等の保存期間:原則7年間
健康保険、厚生年金、雇用保険関係の書類保存期間:2年~4年間
ここでポイントとなるのが、企業の実務としては「最も保存期間が長い『税務関係の7年』に合わせて保管する」のが一般的かつ合理的であるという点です。例えば、扶養控除等申告書などは、所得税法により「提出期限の属する年の翌年1月10日の翌日から7年間」の保存が義務付けられています。会社は、この7年間は関係書類を保持しておかなければなりません。
つまり、「社員が退職したから」といってすぐに破棄するのではなく、退職後も税務上の義務を果たすために必要な期間(最大7年間程度)は、マイナンバーが含まれた書類やデータをそのまま保管し続けるのが正しい運用となります。
3 保存期間が過ぎたらどうすればよいか
上記の保存期間が満了し、税務や社会保険の事務処理を行う可能性がなくなった段階で、「できるだけ速やかに破棄・削除しなければならない」という廃棄義務を履行することになります。
「事務処理が必要な期間中は大切に保管し、必要がなくなったら速やかに捨てる」というのが基本となります。
第4 「正しい破棄・削除」とは具体的にどうやればいいのか?

1 容易に復元できない手段の徹底
不要となったマイナンバーを廃棄する際には、「復元不可能な手段による破棄・削除」が原則となります。単に紙をゴミとして廃棄したり、パソコン上で「ゴミ箱に入れる」といった簡易な操作を行ったりするだけでは、適切な破棄と認められません。外部への流出や不正な復元を防ぐため、媒体に応じた確実な処分を行う必要があります。
2 【紙媒体】の場合
紙の書類で保管している場合は、例えば、以下のような方法で処分します。
・クロスカットシュレッダーによる細断
・専門業者による溶解処理
・焼却処分
社内の通常のゴミ箱に、そのまま投かんすることは厳禁です。また、溶解処理業者などを利用する場合は、業者から「溶解証明書(廃棄完了証明書)」を取得しておくことが望ましいです。
3 【電子データ】の場合
パソコンやサーバー上で管理している場合は、ファイルを「右クリックで削除」したり、「ゴミ箱を空にする」だけの操作では、記憶媒体(ハードディスク等)上にデータの痕跡が残っており、特殊な復元ソフトを使えば簡単に復元できてしまいます。
データを上書き消去する専用ソフトを用いるか、給与計算・人事ソフト等に搭載されている「マイナンバー完全消去・ログ削除機能」を利用します。
マイナンバーデータが保存されていたUSBメモリ、外付けハードディスク、古いパソコン本体などを処分・リサイクルする場合は、専用の機器を用いる、専門業者に依頼する、記録媒体を物理的に破壊する等の措置をおこないます。
4 廃棄・削除を行った記録の残し方
マイナンバーを破棄・削除した際は、「いつ、だれのマイナンバーを、だれが、どのような方法で破棄したか」を記録しておくことが重要です。
第5 まとめ

マイナンバーは、一般的な個人情報と比べて法令上の制限が厳格であり、万が一、漏えいや不適切処理が発生した場合のリスクも高くなります。
特に、退職者のマイナンバー処理は、「うっかり放置してしまう」「焦って必要な書類まで消してしまう」といったトラブルが起こりやすい領域です。自社の運用ルールや社内規程の作成、廃棄方法に不安や疑問がございましたら、早期に弁護士等の専門家へご相談いただくことをおすすめいたします。
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この記事を書いた弁護士:弁護士 赤木誠治
個人情報保護法
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所所属、埼玉弁護士会所属の弁護士。平成30年に弁護士登録をおこない、弁護士法人グリーンリーフ法律事務所に入所。事務所内においては個人情報保護法に関する問題を担当しており、顧問先を中心に多数の相談に対応。個人情報保護に関する顧問向けセミナーの講演実績も有する。






