近年社会問題化しているカスハラですが、労働者の心身の安全を守り、労働者が安心して働くことができるよう、カスハラ対策を行うことは事業者の責務です。第4弾である本稿から2回に渡って、企業が具体的に取り組むべきカスハラ対策を取り上げます。

社会問題化する「カスハラ」とは

一般的にカスハラとは、
顧客等からのクレーム・言動のうち、当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、当該手段・態様により、労働者の従業環境が害されるもの
とされています(厚生労働省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」)。

また、顧客等からのクレームであれば何でもカスハラになるわけではなく、ある行為がカスハラに該当するかどうかは、

①顧客等の要求内容に妥当性はあるか
②要求内容を実現するための手段・態様が社会通念に照らして相当と言えるか

を判断基準にすべきとされています。

前回は企業のカスハラ対策第3弾として、カスハラに関する企業の責任について解説しました。

第4弾となる本稿では、これから2回に渡って、厚生労働省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」に沿って、企業が具体的に取り組むべきカスハラ対策を紹介したいと思います。

企業が取り組むべきカスハラ対策の概要

事業者の責務であるカスハラ対策を実践するため、企業が具体的に取り組むべき対策は、大きく分けて、【カスハラを想定した事前の準備段階】と【カスハラ事案が実際に発生した場合】の2つに分かれます。

そして、【カスハラを想定した事前の準備段階】の対策としては、

①事業主の基本方針・基本姿勢の明確化、従業員への周知・啓発
②従業員のための相談対応体制の整備
③対応方法・手順の策定
④社内対応ルールの従業員等への教育・研修

があります。

一方、【カスハラ事案が実際に発生した場合】の対策としては、

⑤事実関係の正確な確認と事案への対応
⑥従業員への配慮の措置
⑦再発防止のための取り組み
⑧その他(①~⑦の措置と併せて)講ずべき措置

があります。

本稿では、まず、前半の【カスハラを想定した事前の準備段階】に取るべき対策について取り上げます。

以下、概要を見てみましょう。

①事業主の基本方針・基本姿勢の明確化、従業員への周知・啓発

企業として、職場におけるカスハラをなくす旨の方針を明確にし、それを組織のトップ自らが発信することが重要です。

そうすることで、企業がそこで働く従業員を守り、その人権を尊重しながら営業していくという安心感が従業員に生まれます。

カスハラから従業員の心身の安全を守り、安心して働ける職場環境を整えることは事業主の責務です。

企業が打ち出すべき基本方針に含める要素の例として、厚労省のマニュアルでは次のものが挙げられていますので、参考にして下さい。

②従業員のための相談対応体制の整備

顧客等からカスハラの被害を受けた従業員が気軽に相談できるように、相談対応の窓口を設け、従業員に広く周知しておきます。

なお、カスハラ専用の相談窓口を設ける必要まではなく、パワハラなどハラスメント一般を取り扱う窓口と一緒でも構いませんし、相談対応者を決めておくことでもよいです。

相談対応者としては、日頃から現場の状況に精通している上司や、現場の管理監督者が適していると言えるでしょう。

相談対応者は、相談の受付(一次対応)や、発生した事実の確認、関係部署への情報共有等の役割を担います。

初期対応がまずいと相談者の不信感を招くほか、問題解決にも支障が出る可能性がありますから、相談対応者には、丁寧な対応(相談者の話を傾聴する姿勢が重要で、詰問口調にならないよう心掛ける等)が求められます。

③対応方法・手順の策定

カスハラ行為には様々なパターンがあります。

それらを全て網羅することはできなくとも、代表的な例で、それぞれの状況に応じた柔軟な対応を想定しておけば、万一の時も慌てずに済みます。

そこで、企業ごとの業務内容、業務形態、対応体制・方針等の状況に合わせた対応方法を予め準備しておくことが重要です。

なお、店舗の規模や時間帯によっては、案件を引継いで対応に当たる管理者が不在の場合もありますから、現場の従業員だけでもある程度適切な対応ができるよう、基本的な対応方法を現場の従業員にも周知しておく必要があります。

厚労省のマニュアルで紹介されている、カスハラ行為の類型別対応例には、次のようなものがあります。

■時間拘束型

 長時間に渡り、顧客等が従業員を拘束する。居座る。長時間電話を続ける。

(対応例)

  対応できない理由を説明し、応じられないことを明確に告げる等の対応を行った後、膠着状態に陥ってから一定時間を超える場合、お引き取り願う、または電話を切る。

  複数回電話がかかってくる場合は、予め対応できる時間を伝えて、それ以上に長い対応はしない。

  現場対応においては、顧客等が帰らない場合には、毅然とした態度で退去を求める。

■リピート型

 理不尽な要望について、繰り返し電話で問い合わせをする、または面会を求めてくる。

(対応例)

  連絡先を取得し、繰り返し不合理な問い合わせがくれば注意し、次回は対応できない旨を伝える。それでも繰り返し連絡が来る場合、リスト化して通話内容を記録し、窓口を一本化して、今度同様の問い合わせをやめるように伝えて毅然と対応する。

■SNS/インターネット上での誹謗中傷型

 インターネット上に名誉を毀損する、またはプライバシーを侵害する情報を掲載する。

(対応例)

  掲示板やSNSでの被害については、掲載先のホームページ等の運営者(管理人)に削除を求める。

投稿者に対して損害賠償請求等を請求したい場合は、必要に応じて弁護士に相談しつつ、発信者情報の開示を請求する。

名誉棄損等について投稿者の処罰を望む場合には、弁護士や警察への相談等を検討する。

④社内対応ルールの従業員等への教育・研修

従業員がカスハラに対する正しい知識と理解を持っていなければ、カスハラを未然に防止することも、また、カスハラ事案が発生した際に適切に対応することもできません。

そこで、日頃からの教育・研修が重要となります。

研修等については、できるだけ全ての従業員が受講し、かつ、定期的に実施することが肝要です。

また、職種や階層によって注意すべきポイントが異なりますので、役員クラス、管理職クラス、現場従業員、などターゲットを分けて実施するのも効果的です。

研修等の内容としては、厚労省のマニュアルが挙げている次の例が参考になります。

■カスハラとは(定義や該当行為例、正当なクレームとの相違)
■カスハラの判断例(判断基準やその事例)
■パターン別の対応方法
■苦情対応の基本的な流れ
■顧客等への接し方のポイント(謝罪、話の聞き方、事実確認の注意点等)
■記録の作成方法
■各事例における顧客対応での注意点
■ケーススタディ

また、過去に実際に発生した事例を取り上げるのもよいでしょう。

成功例(早期に上手く収めることができた事例)と失敗例とを比較して、その対応の違いや、どのようにすれば深刻なトラブルに発展することを回避できるのかを検討すると、今後に役立ちます。

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■この記事を書いた弁護士
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 田中 智美
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