令和7年6月、カスタマーハラスメントへの対策を使用者に義務づける法律が国会において成立しました。

成立した具体的な法律名は、労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律等の一部を改正する法律(以下、「改正法」とします)というものですが、今後、使用者は当該法律に従ってカスハラ対策を講じる必要が出てきます。

今回は使用者に対するカスハラ対策義務化について解説をしていきます。

カスハラとは?

カスハラはカスタマーハラスメントを省略した言葉ですが、顧客等による従業員に対する迷惑行為のことを指します。

カスハラは、改正法において、「職場において行われる顧客、取引の相手方、施設の利用者その他の当該事業主の行う業務に関係を有する者の言動であって、その雇用する労働者が従事する業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えたものにより当該労働者の就業環境が害されること」と定義されています。

具体的には、商品やサービスに対して大声を出して執拗にクレームをつける、謝罪と称して土下座を強要する、暴言を吐く、物を投げつける、交換の必要がないのに交換を強く迫る、体を突き飛ばすなどの行動が挙げられます。

その中には強要罪や暴行罪など刑罰法規に触れるものもありますが、刑罰法規に触れなければカスハラにならないというものではありません。

なお、改正法では「厚生労働大臣は…事業主が講ずべき措置等に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針を定めるものとする」とされており、顧客等のどのような行為がカスハラに該当するかについては追って公表される指針に基づいて整理が行われる予定です。

改正法の定めるカスハラ対策の内容

改正法は、使用者、労働者、顧客等、国に対してそれぞれ以下の対応を求めています。

使用者に対して

・カスハラに対する雇用管理上の措置義務
「事業主は、職場において行われる顧客、取引の相手方、施設の利用者その他の当該事業主の行う業務に関係を有する者の言動であって、その雇用する労働者が従事する業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えたものにより当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない

・不利益取扱いの禁止
「事業主は、労働者が前項の相談を行ったこと又は事業主による当該相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他の不利益な取り扱いをしてはならない

・カスハラ対策について他の事業主への協力努力
「事業主は、他の事業主から当該他の事業主が講じる第一項の措置の実施に関し必要な協力を求められた場合には、これに応ずるよう努めなければならない

・カスハラに関する従業員への周知教育
「事業主は、顧客等言動問題に対するその雇用する労働者の関心と理解を深めるとともに、当該労働者が他の事業主が雇用する労働者に対する言動に必要な注意を払うよう、研修の実施その他の必要な配慮をする

・カスハラへの理解努力
「事業主は、自らも、顧客等言動問題に対する関心と理解を深め、他の事業主が雇用する労働者に対する言動に必要な注意を払うように努めなければならない

・国が行うカスハラに関する広報活動や啓発活動への協力努力
国の講ずる前項の措置に協力するよう努めなければならない

労働者に対して

・カスハラへの理解及び使用者のカスハラ対策への協力努力
「労働者は、顧客等言動問題に対する関心と理解を深め、他の事業主が雇用する労働者に対する言動に必要な注意を払うとともに、事業主の講ずる第一項の措置に協力するように努めなければならない

顧客等に対して

・カスハラへの理解努力
「顧客等は、顧客等言動問題に対する関心と理解を深めるとともに、労働者に対する言動が当該労働者の就業環境が害することのないよう、必要な注意を払うように努めなければならない

国に対して

・カスハラ対策等に関する指針の設定
「厚生労働大臣は、前三項の規定に基づき事業主が講ずべき措置等に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針を定めるものとする」

・カスハラ対策についての広報活動や啓発活動等の実施努力
「国は、労働者の就業環境を害する前条第一項に規定する言動を行ってはならないことその他当該言動に起因する問題に対する事業主その他国民一般の関心と理解を深めるため、各事業分野の特性を踏まえつつ、広報活動、啓発活動その他の措置を講ずるように努めなければならない

改正法施行時期など

改正法は施行期日について、「この法律は、公布の日から起算して一年六月を超えない範囲内において政令で定める日から施行する」と定めており、遅くとも令和8年中には施行されるものと考えられます。

使用者が講ずべきカスハラ対策等の具体的内容については厚生労働大臣の定める指針の設定を待つことになりますが、使用者としてどのような対策を講じるかの明示、カスハラに関する相談体制の整備、カスハラ発生後の事後対応等については整理する必要があるものと思われます。

この点については指針の設定後に、再度、触れさせていただきます。

まとめ

今回は使用者に対するカスハラ対策義務化について解説をしてきました。

昨今、ニュース等で取り沙汰されているカスハラについて、使用者の側も法律に基づいて適切な対応を講じることが要求される状況となりました。

カスハラ対策の具体的な内容については指針の設定等の動きを待つことになるかと思いますが、いずれにせよ使用者として義務違反とならないよう対応する必要があります。

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■この記事を書いた弁護士
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弁護士 吉田 竜二
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