不祥事を起こした従業員への対応は、企業として法令と社内ルールを遵守しながら、迅速かつ公正に進める必要があります。今回は、処遇決定の流れと、ヒアリングや処遇を決定する際の注意点を解説します。

不祥事発覚後の対応方法

事実関係の調査

不祥事発覚後は、事実関係を調査し、事実に基づいた処遇の決定を行い、再発防止に努める必要があります。その方法は、おおむね以下の通りです。

不祥事を知る関係者からのヒアリング

まず、不祥事の通報者に対してヒアリングを実施し、発言内容を記録(録音や書面化)します 。この際、聞き取った情報を、不祥事を起こしたとされる従業員に伝え、事実関係の確認を取る必要が出てくることが予想されますので、情報を伝えて良いかを通報者に確認します。

客観的証拠の確保

不祥事が発覚した場合、防犯カメラ映像、メールやチャットの記録など、客観的証拠を確保することが最優先です 。

例えば、セクハラやパワハラの事案では被害者が日記、録音、加害者とのメールを保存していることがありますので、これらの証拠を確保します。加害者に対するヒアリングを行う場合に、加害者が被害者とのメールを消去したと主張することも有りますので、証拠の確保は必須です。

ヒアリングの実行と留意点

ヒアリングの順序は、通報者や目撃者から聞き取りし、最後に不祥事を起こしたとされる従業員に聞き取りをします。証拠の隠滅を防ぐためです。

また、中立的な姿勢で聞き取り、結論を押し付けないよう注意します。特に、不祥事を行った従業員に対する聞き取りでは、偏った聞き方や強圧的な発言は避けます 。そして、録音する際は相手に告知するか、本当は録音されていると仮定して臨むなどの配慮も必要です 。

また、ヒアリングを実行する際、客観的な証拠と異なる供述がなされる場合には、客観的証拠を提示して、供述の信用性に疑問がある旨を指摘し、その供述を本当に維持するのかについて確認を取って頂くべきです。

証拠整理と評価

客観的証拠と供述を照らし合わせた上で、違法な行為であるか、懲戒処分対象行為であるか、又は、人事異動が必要な行為であるかを検証します 。不祥事を指摘する人物と不祥事を起こしたとされる従業員の供述に、客観的証拠と異なる部分がないかを検討し、異なる部分があればその部分の供述の信用性は低いと考えます。反対に、客観的証拠と整合する供述は、信用性が高い供述であると判断できます。

処分内容の決定

懲戒処分については戒告・減給・出勤停止・降格・懲戒解雇まで考えられますが、合理的理由と処分内容の相当性が求められます。出勤停止は、その間の給与の支給がなされないという比較的重い処分になりますので、例えば、過失により保育園児を屋外で見失った保育園の職員について出勤停止7日間の処分は重きにすぎると判断したような裁判例もあり、処分を決定する際は注意が必要です。

また、懲戒処分以外の人事権の行使として、降格処分を行うことがあり、処分を行う際には使用者側の裁量が比較的認められるのですが、降格は減給を伴うことが多いため、減給により生活が困難になり退職を余儀なくされるということがありますと、退職させることを目的とした違法な人事権の行使と見られることがありますので、注意が必要です。

他方、近時は、従業員が別の従業員に対して性犯罪を行う等の悪質な事例も見受けられますので、必要に応じて、損害賠償請求や刑事告訴を行うことも検討します。

再発防止と情報発信

不祥事を解決した後においても、必要に応じて就業規則を改訂し、管理体制を強化したり、コンプライアンス研修等の改善措置を導入し、社内外に周知します 。

まとめ

以上の通り、不祥事に対する対応については注意すべき点が多々ありますので、事前に準備をしておくことが肝要です。特に、客観的な証拠の収集は、ヒアリング時に虚偽の供述を防ぐために必要であり、また、供述内容の信用性を判断して適切に処遇内容を決めるためにも重要ですので、入念に行う必要があります。そして、最終的な処遇の判断には、合理的な理由と処遇の相当性が求められますが、法的な知識に照らした適切な判断が必要となります。弁護士は、以上のような証拠に基づいた事実の認定及び処遇の決定について適切なアドバイスができますので、お悩みの際はぜひご相談ください。

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■この記事を書いた弁護士
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 村本 拓哉
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