情報の持ち出しや不正使用を防ぐため、会社が社員から秘密保持に関する誓約書をもらうことがあります。この秘密保持誓約書には下記のようなことを記載するのが普通です。

①秘密情報とは何か。②在職中はもちろん、退職後も秘密情報の漏洩をしない。③退職時には秘密情報を記録した媒体を返還する。④在職中は、会社の業務と競合する取引をしない。⑤退職後3年間は、会社と競合関係にある事業者に就職しない、会社と競合関係に立つ事業を開業しない、⑥在職中及び退職後3年間、会社の従業員を勧誘したり退職を促したりしない。

ところで時々、「これだけもらっておけばよいという完全な秘密保持誓約書のひな形がないか」というお問い合わせをいただくのですが、残念ながらそのようなひな形はありません。
上記の②から⑥であれば、問題ない文章を作ることが可能ですし、また、秘密保持誓約書ではなく、就業規則に規定しておくことも可能ですが、問題は上記の①の部分です。

上記の①について、秘密情報を網羅的に記載しようとすれば、「在職中に知り得た貴社の経営上、営業上、技術上、その他一切の情報(貴社の顧客情報を含む)」とすることも考えられますが、これですとあまりに包括的で漠然としており、裁判になった場合に無効とされてしまいます。

入社時にはこのような包括的な誓約書をもらうことも仕方ないと思いますが、会社に長くいるにしたがって、あるいは昇進するにしたがって、その社員が持っている(会社にとっての)秘密情報とは何かということが明らかになってくるのですから、例えば、昇進を一つのタイミングとして、具体的な秘密情報の中身を書いた秘密保持誓約書をもらうということも大事かと思います。
退職時にも、具体的な秘密情報を書いた秘密保持誓約書をもらうべきですが、退職者が秘密保持誓約書の提出を拒否するときは、以前に昇進時などに書いた秘密保持誓約書が役に立ちます。

なお、不正競争防止法では「営業秘密」が保護されていますが、「営業秘密」と認められるためには、「秘密として管理されている」「有用な」情報で、「公然と知られていないもの」という条件があり、この要件を満たすかどうかで争いになることが少なくありません。この点、秘密保持誓約書をもらっていると、この要件に当たるかどうかの争い(争点)を避けることができます(但し、まったく管理されていないということだと、秘密保持誓約書でいう「秘密情報」とは言えないともなりかねないので、ある程度管理しておくことは必要です)。