労働紛争がこじれ従業員が裁判所に対して労働審判手続の申立てをするということがあります。労働紛争が労働審判となった場合、会社側としてその対応にどの程度の費用がかかるのでしょうか。
今回は会社として労働審判に対応する場合の費用について解説をしていきます。

労働審判手続申立てにかかる費用

従業員が労働審判手続の申立てを行う場合、主として以下の費用がかかります。
弁護士を依頼する場合には弁護士費用・実費等
請求内容に応じて申立書に貼付する印紙代
申立書類等を郵送でやり取りをするための郵券代

上記の費用は労働審判手続の申立てを行う従業員が負担するものであり、基本的には会社が負担する必要はありません。

なお、労働審判手続申立書の「申立ての趣旨」に「申立費用は相手方の負担とする」との記載がされることがあります。
「申立費用」は主として印紙代や郵券代を指しますが、労働審判手続において当該費用は原則的に当事者が各自で負担するものとされていますので、仮に審判になった場合でも「申立費用は各自の負担とする」という結論になることが一般的です。
「各自の負担」とありますが、労働審判手続申立てにあたり申立費用を負担するのは従業員側であるため、結局、申立費用を会社が負担することはないということになります。

これは逆の見方をすれば、会社側も労働者に対して労働審判手続に対応するために支出した費用を請求することはできないということを意味していますので、その点は認識しておく必要があります。

労働審判手続に対応するためにかかる費用

従業員が申し立てた労働審判手続に対応する場合、会社側には主として以下の費用がかかります。
弁護士を依頼する場合には弁護士費用・実費等
従業員の請求が認められた場合の解決金等

弁護士費用

労働審判手続を弁護士に依頼せずに対応することは可能ですが、初回期日でおおよその方向性が定まってしまう労働審判手続においては弁護士の助力を得て初回期日前に必要十分な準備を行うことが重要であり、ほとんどの会社が弁護士に依頼をした上で対応することになるかと思います。

現在、弁護士費用は自由化されていますので、個々の弁護士事務所により弁護士費用の設定は区々ですが、弁護士費用の構成は、大きく分けて、着手金・報酬金型、タイムチャージ型の2つに分かれます。

着手金・報酬金型

多くの弁護士事務所がこの方式を採用しています。
依頼を受ける際に着手金を受け取り、事件終了等のタイミングで報酬金を受け取るという方式です。
一般に、着手金・報酬金は、請求金額等に一定の料率を乗じて計算される変動型ですが、固定の金額としている弁護士事務所もあります。

タイムチャージ型

大手の企業法務事務所ではタイムチャージ制を採用している場合があります。
時間単価を設定の上、案件にかかった時間・人数をもとに弁護士費用を算定します。
タイムチャージ型は、弁護士費用の上限が設定されない場合には着手金・報酬金型と比べ、弁護士費用の総額が把握しにくいという指摘をすることができます。

なお、日弁連が過去に弁護士に対して行ったアンケートによれば、着手金・報酬金型では、いずれも30~50万円がボリュームゾーンとなっており、総額として60~100万円の弁護士費用が平均的な数値であると考えることもできます。

実費・日当

労働審判手続に対応するにあたり弁護士を依頼する場合には弁護士費用のほか、実費・日当が発生する可能性があります。
従業員が支店に勤務していた場合、労働審判手続は支店を管轄する裁判所でも行うことができます。本店と支店の距離が離れており、本店付近の弁護士を依頼するという場合には労働審判期日には遠方の裁判所に出向くことになりますので(WEB会議システム等を利用する場合を除きます)、交通費等の実費や拘束時間によっては日当が発生することもあります。

解決金等

労働審判手続において会社の言い分が全面的に認められ、従業員の請求が退けられた場合を除き、会社側は従業員に対して一定の支払いをすることになります。
解雇事案では賃金月額の●か月分、残業代請求事案では従業員請求の●割分、ハラスメント事案では慰謝料●万円といった支払いが考えられます。

会社側の負担費用を適切なものとするための視点

解決金等の金額は事案の性質によるところが大きいため一方的に操作することは難しいのですが、会社側が労働審判手続に対応する上でかかる費用のうち相当程度の割合を占める弁護士費用については比較検討の上、選択することができます。
提示された弁護士費用が適切なものかを検討する際には、弁護士費用の算定に疑問はないか、事案解決までの見通しは合理的なものかといった視点を持っておくことが有用です。
前者により労働審判手続に対応するための弁護士費用の全体像が把握でき、後者により提示された弁護士費用が事案解決のコストとして適切なものかが判断できます。
労働審判手続は会社側にとって十分な準備時間が与えられているとは言い難い制度設計となっていますが、尚早な弁護士選択は紛争解決の満足度に大きな影響を及ぼすため、その選択は慎重に行うべきです。

弊所の弁護士費用

参考までに弊所の弁護士費用を紹介します。
弊所では着手金については一定の幅を持たせた固定型を採用し、報酬金については解決の程度に応じた変動型を採用しています。

着手金

事案の性質に応じて、30~50万円(税別)の範囲で決定します。

報酬金

解雇無効事案について、労働契約の終了が認められた場合、基本的には20~50万円(税別)の範囲で決定しますが、労働者の1年分の賃金(賞与を含む)に16%(賃金額が300万円以下の場合)(税別)ないし10%+18万円(賃金額が300万円を超える場合)(税別)の料率を乗じて算定することもあります。
未払賃金請求事案について、従業員から請求された金額と実際に従業員に支払うこととなった金額の差額に16%(差額が300万円以下の場合)(税別)ないし10%+18万円(差額が300万円を超える場合)(税別)を乗じて算定します。

まとめ

今回は会社側が労働審判手続に対応するためにかかる費用について解説をしました。
従業員から労働審判手続の申立てがされた場合、労働紛争解決までにはある程度まとまった費用がかかってきますので、ご検討の一助にしていただければ幸いです。

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■この記事を書いた弁護士
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 吉田 竜二
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