新聞の折り込みや道で手渡しするなど、チラシは重要な営業方法の一つですが、チラシの著作権は誰にあるのでしょうか。あるいは、そもそもチラシに著作権は認められるのでしょうか。著作権法にもとづいて考えてみました。

1 はじめに

毎朝、新聞にスーパーなどのチラシが折り込まれてきたり、あるいは道で手渡されるレストランなどのチラシを受け取ったりします。チラシは、営業活動の一つの重要な手段ですが、チラシの権利は誰にあるのでしょうか。チラシについて問題になるのは著作権ですので、チラシと著作権についてお話ししたいと思います。

2 著作権とは何か。

著作権とは、簡単に言うと他人の著作物を、その人の承諾なしに使うことを禁止する権利です。

それでは著作物とは何かということですが、著作権法によると、著作物とは「思想または感情を創作的に表現したもので、文芸、学術、美術、音楽の範囲に属するもの」を言うとされています。

このうち、「創作性」の有無がポイントになることが多いと思いますが、創作性があるとは、作品に作者の個性、独自性があることを言い、その個性、独自性が高度なものかどうかは問わないとされています。よく言われていることですが、小学生が書いた絵でも、その生徒の個性、独自性があれば、創作性があるとされ、その絵がうまいか下手かは問題にはなりません。

3 誰が著作権者になるのか。

著作権者、つまり著作権を持つ権利者は、著作物を創作した人です。
例えば、自分の会社のロゴの作成をイラストレーターに発注し、お金を払ってロゴを作ってもらった場合、ロゴの著作権はイラストレーターにあります。お金を払った発注者にあるのではありません。

お金を払ったことによって、発注者は、イラストレーターとの契約で決められた範囲内でロゴを使うことができますが、ロゴの著作権を取得するわけではなく、決められた範囲を超えてロゴを使えば、イラストレーターの著作権を侵害したことになります。

例えば、自社の受付やホームページにロゴを使うことはできますが(契約の範囲内なので)、ロゴが入った自社の写真を他社に提供し、他社がその写真を使用するなどすれば、イラストレーターの著作権を侵害する可能性が出てきます(契約の範囲外なので)。

4 チラシの著作権は誰にあるのか。

それでは、表題の件に戻って、チラシの著作権は誰にあるのでしょうか。これは、上記の3のとおり、チラシを作った印刷会社などにあります。スーパーなどのチラシの発注者は、印刷会社などにお金を払っていますが、著作権者になるわけではなく、契約で決められた範囲でチラシを使えるにすぎません。

例えば、新聞折込みに使うと契約で決めていれば、それを超えて自社のホームページに載せるのは著作権を侵害することになります。

5 チラシに著作権が成立するのか。

⑴ 最近の判例

ところで、ここで問題が一つあります。上記の1で、著作権が成立するには、「創作性」がなければならないと言い、創作性とは、作品に作者の個性、独自性があることと言いましたが、チラシに、チラシを作った者(印刷会社、あるいはその社員など)の個性、独自性が現れていると言えるでしょうか。

この点、大阪地方裁判所平成31年1月24日判決を検討してみたいと思います。

① 事例

Yが作成・使用したチラシが、Xが著作権を有するチラシとほとんど同一であり、YはXの著作権を侵害するとして、XがYに対して損害賠償を求めた事例です。
そのチラシは、下記のとおりで、左がXのチラシ、右がYのチラシです。内容はほとんど同一であり、もしXのチラシに著作権が成立するなら、そのチラシをほとんどそのまま真似たYのチラシは、Xの著作権を侵害することは間違いないといってもよいと思います。

② 裁判所の判断

ところで、裁判所は「(上記左の)Xのチラシには「創作性」がなくXのチラシは著作物とはいえない。したがって、これを制作したXに著作権は成立せず、YはXの著作権を侵害したとは言えない」として、Xの請求を認めませんでした。
その理由は下記のとおりです。

【理由】
ア Xのチラシ中には、「検査時間」「受診代金」の文字があり、これが「×」で消されているが、これはありふれた表現方法であり、また「検査なしでスグ買える」という表現も、そこに個性が表れているとは言えない。

イ 文字で表現しようと思えばできる事項を表形式にまとめることは通常行われる手法である。

ウ なぜ検査なしで購入できるのかを説明した部分も、その内容は法規の内容や運用を説明した上で、顧客の経済的・時間的な観点から、販売時に処方箋を必要としてないことを説明したものにすぎず、文章自体に特段の工夫があるとは言えない。

エ 上記ア、イ、ウの組み合わせに著作権が認められるとXは主張するが、何かを強調し、分かりやすく伝えるために、説明文とキャッチフレーズと表形式のものを組み合わせることは、特徴的な手法とは認められない。

⑵ 説明

① アイデアではなく表現方法

自社のサービスの特徴を選び出したり、それをどのような方法で消費者に分かりやすく伝えるかということを考えるのには多大な時間を費やしますし、このアイデアの部分が一番苦労するところです。
Xも、この点に多大の時間を使ってチラシを作ったのだと思いますが、著作権で保護されるのはアイデアではなく、表現の方法です。

上記の大阪地裁判決は、個々の表現を一つ一つ検討して、創作性がないと結論付けていますが、これも著作権法で保護されるのはアイデアではなく、表現の方法だという点からやむを得ないのだと思います。

著作権を侵害しているかどうかを考える場合、アイデアではなく表現方法だということを認識するのは大事な点です。

② まずは、著作物かどうか

また、著作者を侵害しているどうかを考える場合、2つの物(チラシ、イラスト、写真、文章など)が似ているかどうかを考えがちですが、まずは、問題になっている物がそもそも著作物と言えるのかを考えることが大事です。

著作物とは、「思想または感情を創作的に表現したもので、文芸、学術、美術、音楽の範囲に属するもの」ですが、この条件、とくに創作性の条件を満たしているのかをよく検討する必要があります。

⑶ チラシの場合

上記の大阪地方裁判所の判決は、工夫して作ったと思われるチラシでも、表現を一つ一つ検討し、創作性がないから著作物とは言えないとした判決です。

ところで、通常のスーパー、レストランなどのチラシは、今回の大阪地方裁判所で問題になったチラシに比べると、表現上の特徴はもっとないように思いますから、多くの場合、チラシには著作権が成立しないということになるのではないかと思います。

ただ、もちろん創作性のある表現が含まれているチラシであれば、著作物として保護されますから、その意味ではケースバイケースということかと思います。

もし、新聞折込用のチラシを発注した後、ホームページに載せようとしたところ、ホームページに載せるのであれば、追加の料金を払って欲しいなどと言われた場合は、そもそもチラシは著作物ではなく、著作権法の保護を受けないから、ホームページに使ってもよいはずだと反論してもよいと思います。

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■この記事を書いた弁護士
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
代表・弁護士 森田 茂夫
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