著作権法上の著作物とは何か、企業の従業員が著作物を創作した場合に問題となる職務著作の内容、職務著作が成立するための5つの要件、職務著作にからむトラブルを避けるために就業規則・契約書の役割について述べてみました。

1 企業の従業員が著作物を創作した場合の著作権の帰属

 ⑴ 著作権とは

   著作権とは、他人の著作物を、その人の承諾なしに使うことを禁止する権利です。それでは著作物とは何かということですが、著作権法によると、著作物とは「思想または感情を創作的に表現したもので、文芸、学術、美術、音楽の範囲に属するもの」を言うとされています。
   そして、著作者とは著作物を創作した人を言います。

 ⑵ 著作物とは何か

   上記のように著作物とは、「思想または感情を創作的に表現したもので、文芸、学術、美術、音楽の範囲に属するもの」を言いますので、ここからすると、著作物といえるためには、次の4つの条件が必要になります。

  ① 思想または感情の表現であること
  ② 創作性があること
  ③ 表現されていること
  ④ 文芸、学術、美術、音楽の範囲に属するものであること

   ①について
   とくに高尚なものでなくても、人の考えや気持ちが表れていればよいとされています。

   ②について
   著作物かどうかの認定で、「創作性」があるかどうかがポイントになることが多いと思います。創作性があるとは、作品に作者の個性、独自性があることを言い、その個性、独自性が高度なものかどうかは問いません。よく言われていることですが、小学生が書いた絵でも、その生徒の個性、独自性があれば、創作性があるとされ、その絵がうまいか下手かは問題にはなりません。

   ただ、例えば新聞折込のチラシなどは、ありふれた表現方法であり、そこに個性が表れているとは言えないし、文章自体に特段の工夫があるとも言えないので、創作性があるとは言えないと判断されることが多いと思います。

   ③について
   表現されていること(文章、音楽、絵画など)が必要であり、例えば、アイデア自体は保護の対象にはなりません。

   ④について
   この④の条件はそれほど重視されておらず、東京高裁昭和62年2月19日判決によると、知的、文化的精神活動の所産全般を指すとされています。したがって、文芸、学術、美術、音楽の範囲に属するもの以外のものでも著作物になります。

 ⑶ 企業の従業員が著作物を創作した場合

   企業の従業員が著作物を創作した場合でも、著作物を創作したのは従業員ですから、著作権は従業員に属することになります。

   ところで企業の従業員が、企業のためにデザインの制作、文書の執筆、プログラムの開発などを行った場合でも、これらのデザイン、文書、プログラムの著作権は、上記のように従業員に属することになり、企業がこれらのものを使うには、著作権を持つ従業員の承諾を得なければなりません。

   従業員は企業のために、デザイン、文書、プログラムなどの著作権を創作したにもかかわらず、企業がそれを使うには、従業員の承諾を得なければならないというのは、企業にとって不都合です。このような場合に、企業に著作権を与えようとするのが職務著作の制度です。

2 職務著作

  職務著作とは、上記のとおり、従業員によって創作された著作物の著作権を企業に与える制度を言います。
  職務著作が成立し、従業員の創作物について企業が著作権を持つためには、次の4つの要件を満たすことが必要です。

 ① 企業の発意によること

   つまり、企業がイニシアティブを持って、従業員に著作物を制作させることが必要です。社長や取締役会でなくても、その従業員の上司の発意であってもよいとされています。

 ② 企業の業務に従事する者であること

   従業員は、企業の業務に従事する者でなければなりません。ところで「企業の業務に従事する」とは何を言うのかについて、使用者と従業員の間に雇用関係がなければならないとする説と、従業員について雇用関係から生じるような指揮監督関係があればよいとする説があります。

   請負人、委任契約による受託者の場合、企業に指揮監督権はありませんから、いずれの説によっても、「企業の業務に従事する者」にはあたらず、これらの者が創作した著作物について職務著作が成立することはありません。

   しかし、派遣労働者、(請負人、受託者の形式をとっていても)実質的に企業に指揮監督されている者の場合は、前者の説では「企業の業務に従事する」とは言えないのに対し、後者の説では、遣労働者の場合は「企業の業務に従事する」ことになるでしょうし、また、(請負人、受託者の形式をとっていても)実質的に指揮監督されている者についても、事情によっては「企業の業務に従事する」といえる場合も出てくると考えられます。
   一般的には、後者の説によってよいのではないかと考えられます。

 ③ 職務上作成されたものであること

   職務上作成されたものであるかどうかは、企業の業務の内容、著作物を作成する従業員が従事する業務の種類・内容、著作物作成が行われた時間・場所、著作物作成についての企業による指揮監督の有無・内容、著作物の種類・内容、著作物の公表態様などの事情を総合的に勘案して判断すべきだとされています。

 ④ 使用者(企業)の名義のもとに公表するものであること

   コンピュータープログラムを除き、企業の名義のもとに公表するものであることが必要です。公表したものではなく、「公表する」ものとされていることから、未公表のものであっても、公表する場合は企業の名のもとに公表するという場合は、「公表するもの」に含まれるされています。

   ※ コンピュータープログラムを除くとされているのは、コンピュータープログラムには、企業の内部利用を行うためだけのものなど公表を予定していないものが多くあるからです。

 ⑤ 契約、就業規則その他の別段の定めがないこと

   これは、上記の①〜④の要件を満たしていても、契約、就業規則などに、著作権は企業ではなく従業員に属するという定めがあるときは、著作権は従業員に属するというものです。

  職務著作権が成立する場合(つまり、上記の①〜⑤の要件を満たしている場合)、職務著作が成立し、企業が著作権者になります。この場合、企業は著作権とともに著作者人格権も取得します。

   ※ 著作者人格権
     著作者人格権とは、著作者が創作した著作物に対して有する人格的利益を保護する権利で、公表権、氏名表示権、同一性保持権、著作者の名声・声望を害する方法により、その著作物を利用する行為を禁止する権利のことを言います。
     著作者人格権は、その権利の性質上、他に譲渡することができないとされています。

3 就業規則、契約書による定め

  就業規則、契約書などで、2の①〜⑤の要件を満たしていない要件を定め、その場合に、著作権が従業員ではなく企業に属すると定めても、これによって、企業が著作権や著作者人格権を有することにはなりません。どのような場合に著作権が発生するかは、法律によることとされている(つまり、2の①〜⑤の要件が必要とされている)からです。

  ただし、就業規則に、従業員が職務上作成した成果物の著作権については、従業員は企業に譲渡するなどの定めがある場合は、譲渡によって、著作権は企業に属することになります。この場合、譲渡できるのは著作権のみで、著作者人格権は含まれません。著作者人格権は譲渡することができないからです。

  また、就業規則は従業員に適用され、一般的には派遣社員には適用されませんから、派遣社員が創作した著作物については、企業が著作権者になることはありません。

  企業と従業員が、従業員は企業に著作権を譲渡する旨の契約書を締結した場合も、著作権は従業員から企業に譲渡されることになります。

  この場合も、譲渡できるのは著作権だけで、著作者人格権を譲渡することはできませんが、契約書で、(在職中でも退職後でも)従業員は企業に対し、著作者人格権を行使しない旨の定めをすることができます。

  また、契約ですから、契約社員であっても、あるいは請負人、委任契約による受託者であっても、企業はこれらの者から著作権の譲渡を受けることができます。

4 職務著作についてのトラブルと就業規則、契約書

   企業と従業員、企業と派遣労働者、企業と請負人、企業と委託契約の受託者などとの間で、職務に関して作成された著作物について、著作権が誰にあるのか争いになることがあります。
 
  企業の従業員との間であれば、就業規則を整備し、就業規則によって、会社、従業員のどちらに著作権があるのかを判断できるようにしておくとよいと思います。

   企業と派遣労働者、企業と請負人、企業と委託契約の受託者などとの間では、労働者派遣基本契約、業務委託請負契約、業務委託準委任契約、その他の契約で、著作権が誰にあるのかを明確にしておくとよいと思います。
 以上

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■この記事を書いた弁護士
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
代表・弁護士 森田 茂夫
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