近年、日本の企業でも「外国人」雇用が増えています。入管法と労働法、外国人と社会法規の問題等、外国人雇用をめぐっては、多数の問題があります。そこで、数回にわけて、外国人雇用等の基本について解説していきます。

入管法と労働契約の内容について

労働法規の適用について

外国人労働者にも、労働基準法、最低賃金法、労働安全衛生法、労災保険法等の公法的な労働法規は、すべて現実の労働関係における労働者の保護を図る制度ですので適用があります。
これは、適法就労か不法就労かを問いません(昭63年1月26日基発50職発31)。

労働基準法3条においても、「第三条 使用者は、労働者の国籍、信条又は社会的身分を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について、差別的取扱をしてはならない。」と規定されています。これは、均等待遇原則と言います。

また、職業安定法、労働者派遣法における職業紹介、労働者派遣、労働者供給の原則的禁止も、日本で就労する外国人の紹介、派遣、供給については、適法か違法就労問わず適用となります。

在留資格と就労の関係

在留資格は、制限なく就労可能な資格と、一定範囲に限って就労可能な資格(業務限定就労可能資格)に分かれています。また、「就労不能資格」も存在します(文化活動、短期滞在等)
就労に制限がないのは「永住者」資格、「日本人の配偶者等」資格、「永住者の配偶者等」資格、「定住者」資格の4つの在留資格のみです。
この4つ以外の在留資格には、一定の制限があります。

企業からよくある質問として、「外国人を働かせたいのだが」というものがあります。その際は、この就労制限がある資格かどうかをまず確認してください。

 このような制限があるので、労働契約の内容には注意する必要があります。

労働契約の内容について

 外国人従業員との労働契約にあたっては、入管法に違反しないように、入国管理局による在留許可が認められない場合には、「雇用契約を解除する」旨の条項を、労働契約に定めることがあります。

かつて、違法は資格外活動となる業務への配置命令の有効性が問題となった裁判例があります。いわゆる、鳥井電器事件です。
裁判年月日 : 2001年5月14日
裁判所名 : 東京地
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成11年 (ワ) 11859

ここでは、配転された業務に従事すれば入管法上違法な資格外活動にあたることとなる内容の配転命令を有効とし、当該配転命令拒否を解雇事由に該当すると判断しました。

この判決には批判があり、入管法上、資格外活動は禁じられているところ、資格外活動に従事した者、従事させた使用者も、罰則や退去強制事由に該当する可能性があります。
配転命令が無効か有効か、議論のあるところですが、雇用主としては、入管法上違法な資格外活動にあたることとなる内容の配転命令をすることは避けるべきでしょう。

不法就労と解雇について

 不法就労者の解雇が、解雇権の濫用にあたるかどうかが問題となった事案があります。
 要は、不法就労者にも、労働契約法が適用されるところ、労働契約法16条により解雇をどのような場合に無効とすることができるのか、また、解雇が無効となる場合の救済方法も問題となります。

ア 雇用主が、不法就労者であることを知らない場合

 この場合、使用者は、入管法上の不法就労助長罪を免れるために、労働者が不法就労者であることを理由に解雇することは、解雇権の濫用にあたらず有効であるという見解があります。
 事案によるかと思いますが、労働者が、資格制限のあることをだまっていた場合や雇用主をだましていた場合は、解雇という結論で問題はないように考えます。

イ 雇用主が、不法就労を知っていた場合

 この点についてリーディングケースとなる判例は見当たりませんが、①雇用主は自ら不法就労を知りつつその状態を作りだしたので、解雇の有効性を主張することは許されないという見解、②解雇無効とすると、将来の不法就労を認めることとなるという見解があります。
 これも事案によるとは思いますが、解雇を有効としつつも、金銭補償(損害賠償)という形の解決があり得ると考えます。

その他外国人の労務管理について

社会保障法規の適用についてみていきます。

1.雇用保険法については、不法就労者を除き、一般的な被保険者の要件を満たす場合は被保険者となります(雇用保険法4条1項)。

2.厚生年金保険法
 原則として外国人労働者にも適用されることになります(厚生年金保険法9条)。
 ただし、不法就労者については、実務運用上は適用されていないようです。

3.健康保険法
 外国人労働者にも適用があります。ただし、上と同じく、不法就労者については、実務運用上は適用されていないようです。なお、国民健康保険法は、1年以上の滞在が見込まれる適法滞在者について適用されます(規則)。

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■この記事を書いた弁護士
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 申 景秀
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