隣人の迷惑行為

土地建物を購入したが、隣人の迷惑行為がひどく、住むことができないというような場合、買主は、売主、売主の仲介業者に対して、損害賠償などを請求することができるでしょうか。この点について、判例にそって考えてみました。

隣人の迷惑行為に関するニュースが報道されることがあります。今回は、迷惑行為についての大阪高等裁判所平成16年12月2日判決を取り上げてみようと思います。

迷惑行為についての大阪高等裁判所平成16年12月2日判決 相関図

1 事案

1 事案

乙(買主)は甲(売主)から土地建物を購入した。甲の仲介業者はA社、乙の仲介業者はB社。

甲から土地建物購入後、乙は、引越し準備のために子どもを連れて物件を訪れた際、隣人の「うるさい。ガキ。」、「前の入居者みたいに追い出したるわ。覚悟しな。」との怒鳴り声が聞こえてきた。同時に、大音量の音楽が鳴り響き、物件にホースによって放水された。乙は、どうすることもできず、警察を呼ぶことにした。

この出来事により、乙は、「この物件では平穏な生活をすることはできない」と判断し、引っ越すことなく入居を断念した。

その後、乙は、甲と甲の仲介業者A社に損害賠償請求をした。

 ※ この事案では、乙は、仲介業者B社は訴えていません。

2 売主の主張

2 売主の主張

甲は、A社に仲介を依頼している。このような場合、説明義務を負うのは仲介業者であるA社であり、甲が説明をしなかったとしても責任はない。

3 売主の仲介業者の主張

3 売主の仲介業者の主張

隣人の性格は、宅建業法に記載されている「重要事項」には当たらず説明義務はない。

仮に当たるとしても、次のような事情があるので説明義務は果たしている。

a A社の担当者が、他の購入希望者をこの物件に案内していたところ、隣人から「子供がうるさい」との苦情を受けので、A社の担当者はB社の担当者に対し、「このことを乙に伝えてはどうか」と連絡している。

b また、A社の担当者は、重要事項説明書に「西側隣接地の住人の方より、騒音などによる苦情がありました」と記載して、乙に提示している。

4 裁判所の判断

4 裁判所の判断

甲とA社の説明義務違反を認め、売買代金の20%に相当する損害賠償金の支払を命じました。

(1)売主に対する判断

① 甲は、A社に仲介を依頼しており、このような場合、説明義務を負うのはA社であり、甲には原則として説明義務はない。

しかし、甲が乙から直接説明を求められた場合は、説明を求められた事項が乙に重大な不利益をもたらす恐れがあり、契約を締結するかどうかの判断に影響を及ぼすことが予想されるときは、甲は信義則上、事実に反する説明をすることが許されないのはもちろん、説明をしなかったり、乙を誤信させるような説明をすることも許されない。

② 本件の場合、乙の質問に対し甲は、甲が以前にこの物件に引っ越してきた際、隣人から「子供がうるさい」と苦情を言われたこと、その後も、隣人は、子供がうるさいと怒り、洗濯物に水をかけたりしたこと、甲は隣人について、自治会長や警察に相談したことがあること、別の購入希望者が物件を見に来た際に、隣人が「うるさい」と苦情を言い、この売買の話しは流れたこと、などを乙に説明していない。

逆に、甲は乙に、「最近は、隣人との間で問題が生じていない」というような説明をしている。

このような隣人の存在は、乙に重大な不利益をもたらす恐れがあるし、また、乙が売買契約を締結するかどうかの判断に影響を及ぼすものであるから、甲には隣人についての説明義務があり、この説明義務を怠ったから損害賠償義務がある。

(2)売主の仲介業者に対する判断

① 宅地建物取引業者は、購入希望者に重大な不利益を及ぼす恐れがあり、売買契約を締結するかどうかの判断に影響を及ぼすことが予想される事項を認識している場合には、この事項について説明義務がある。隣人についても、隣人が迷惑行為を行う可能性が高く、その程度も著しいなど、購入者が物件に居住するのに支障を来たすような客観的な事情を認識した場合は、この隣人についての説明義務がある。

② A社は、上記の4(1)②にあるような問題ある隣人の存在を認識していたと認定でき、そうであれば、A社には乙に対する説明義務違反がある。

A社は、このような隣人の存在を認識した場合は、B社にそのことを伝えるよう依頼するだけでは不十分で、乙がこのような事情を認識していない様子である場合は、A社自ら、乙に対して、隣人のことを説明しなければならない。

また、重要事項説明書に、「西側隣接地の住人より、騒音等による苦情がありました」と記載してあっても、このような記載では「隣人が極端な子ども嫌いで、常識を超えた嫌がらせをする」といった特異性を乙が認識することはできない。

4 まとめ

仲介業者が入っている場合、売主は買主に対して、原則として説明義務を負いませんが、直接、買主から説明を求められた場合は、一定の重要な事項については説明義務があるということになります。

また、仲介業者としても、隣人が迷惑行為を行う可能性が高く、その程度も著しいという事情を認識したときは、このことを説明する義務があるし、場合によっては直接、乙に伝えなければならないということです。また、重要事項の記載も十分なものでなければなりません。

迷惑行為を行う隣人の存在は、物件自体の性能とは関係ないから説明する必要がないというわけにはいきません。

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■この記事を書いた弁護士
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
代表・弁護士 森田 茂夫
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