外国人従業員を雇用している企業にとって、入管法の問題は決して他人事ではありません。採用時には問題がないように見えても、在留期限の経過、在留資格に合わない業務への従事、資格外活動、刑事事件、在留資格取消しなどをきっかけに、従業員が退去強制手続の対象となることがあります。

従業員が退去強制の問題に直面した場合、企業としては、本人の問題として放置するのではなく、雇用継続の可否、出勤停止、業務引継ぎ、取引先対応、不法就労助長罪のリスクなどを冷静に整理する必要があります。本コラムでは、外国人従業員が退去強制手続の対象となった場合に、企業が注意すべきポイントを解説します。

退去強制手続とは

退去強制手続とは、入管法に定められた退去強制事由に該当する外国人について、日本からの退去を求める手続です。典型例としては、不法入国、オーバーステイ、在留資格に反する活動、一定の刑事事件、在留資格取消し後の滞在などが挙げられます。

退去強制という言葉から、すぐに本国へ送還されるという印象を持つ方もいます。しかし、実際には、違反調査、違反審査、口頭審理、異議申出、法務大臣等による裁決など、一定の手続があります。また、事案によっては、在留特別許可が問題となることもあります。

もっとも、退去強制手続の対象になった従業員については、在留資格の有無や就労の可否が不安定になります。そのため、企業としては、本人が働き続けられる状態にあるのかを確認しないまま漫然と就労させることは避けるべきです。

企業がまず確認すべきこと

従業員から「入管に呼ばれた」「オーバーステイになっていた」「在留資格の更新が不許可になった」「退去強制の手続になった」などの申告があった場合、企業は、まず事実関係を確認する必要があります。

確認すべき事項は、在留カードの有無、在留資格の種類、在留期限、就労制限の有無、資格外活動許可の有無、現在の業務内容、入管から受け取った書類の内容などです。特に、在留期限を過ぎている場合や、就労が認められない在留資格で働いている場合には、不法就労の問題が生じる可能性があります。

ここで重要なのは、本人の説明だけで判断しないことです。本人も制度を正確に理解していないことがありますし、「更新申請中だから大丈夫」「前の会社では働けていた」「在留カードがあるから問題ない」といった説明が、必ずしも法的に正しいとは限りません。

不法就労助長罪のリスク

企業側にとって特に注意すべきなのが、不法就労助長罪です。就労できない外国人を雇用したり、在留資格で認められていない業務に従事させたりすると、外国人本人だけでなく、雇用主側も責任を問われる可能性があります。

よくある誤解は、「会社は知らなかったのだから責任はない」というものです。しかし、外国人を雇用する企業には、在留カード、在留資格、在留期限、就労制限、資格外活動許可を確認することが求められます。確認を怠っていた場合には、知らなかったというだけでは十分な反論にならないことがあります。

そのため、退去強制手続の対象になっている疑いがある従業員については、まず就労可能性を確認し、必要に応じて一時的に就労を停止するなどの対応を検討すべきです。ただし、労働契約上の地位もあるため、直ちに解雇すればよいという単純な問題ではありません。就労資格の有無、就労不能の期間、業務への影響、本人の説明機会、就業規則の定めなどを踏まえて、慎重に判断する必要があります。

退去強制になった従業員を雇い続けられるか

退去強制手続の対象になったからといって、すべてのケースで直ちに雇用契約が終了するわけではありません。たとえば、在留特別許可を求めて手続を進めている場合や、入管手続の結論がまだ出ていない場合には、本人の在留状況や就労可否を個別に確認する必要があります。

他方で、すでに在留資格を失っている、就労が認められない、退去強制令書が出ているといった場合には、実際に働かせることは困難です。この場合、企業としては、休職扱い、退職協議、契約終了、解雇の可否などを検討することになります。

ここで注意すべきなのは、入管法上働けないことと、労働法上当然に解雇できることは同じではないという点です。就労不能の原因、期間の見通し、会社側の確認体制、本人への説明、代替措置の有無などによって、労務上のリスクは変わります。したがって、入管法と労働法の両面から検討することが重要です。

企業が平時から行うべき管理

退去強制の問題が起きてから対応するだけでは、企業側のリスク管理としては不十分です。外国人を雇用する企業は、採用時だけでなく、雇用継続中も在留資格を管理する必要があります。

具体的には、在留カードの確認、在留期限の社内管理、更新時期のリマインド、担当業務と在留資格の適合性確認、部署異動時のチェック、資格外活動許可の確認、外国人雇用状況届出の対応などが重要です。特に、採用後に業務内容が変わった場合には、当初は適法であっても、その後に在留資格との不一致が生じることがあります。

また、在留カードをコピーして保管するだけで安心してはいけません。偽造・失効の可能性もあるため、必要に応じて在留カード等読取アプリや失効情報照会を利用し、確認した日時や確認者を記録しておくことが望ましいといえます。

弁護士に相談すべき場面

従業員が退去強制手続の対象になった場合、企業は、本人の在留問題、会社の雇用責任、不法就労助長罪のリスク、労務対応を同時に検討しなければなりません。対応を誤ると、本人の在留手続に不利益が生じるだけでなく、企業側にも刑事・行政・労務上の問題が波及する可能性があります。

特に、在留期限が過ぎている場合、更新不許可後も勤務している場合、在留資格と業務内容が合っていない疑いがある場合、警察や入管から会社に連絡が来ている場合、解雇や退職を検討している場合には、早めに弁護士へ相談することをおすすめします。

外国人雇用は、適切に行えば企業にとって大きな力になります。しかし、入管法の確認を軽視すると、後から重大な問題に発展することがあります。企業としては、採用時・更新時・業務変更時・問題発覚時のそれぞれの場面で、在留資格と就労可否を丁寧に確認し、必要に応じて専門家の助言を受けることが重要です。

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■この記事を書いた弁護士
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 申 景秀
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