廃棄物処理法上、廃棄物の収集・運搬・処分を行うにあたり、様々な規制が定められています。他方、廃棄物処理業者と行政との間で、公害防止協定等を締結する場合があります。この場合、公害防止協定の法的拘束力が問題となります。

リーディングケース~福津市最終処分場事件(最判平成21年7月10日・判例時報2058号53頁)

事案の概要

有限会社Yは、平成元年1月、福岡県知事から廃棄物処理法の産業廃棄物の最終処分場の設置の許可を受けました(法改正がありましたが、事案説明便宜のため省略します)。その後、平成7年7月、Yは、本件処分場があった福津市(旧福間町)との間で、以下の公害防止協定を締結しました。

「福間町と,Yとは,福間町大字E○○番地外77筆においてYが行う産業廃棄物処理施設(本件処分場)の設置に伴い,住民の健康保持と生活環境の保全を図るため,公害防止について次の通り協定を締結する。」

「処理施設の概要 本件処分場の名称,設置場所,施設の種類,施設の規模(面積・5万3768平方メートル,埋立容量・103万9050立方メートル)」

施設使用期限 平成15年12月31日まで。ただし,それ以前に上記埋立て容量に達した場合はその期日までとする。

Yは,頭書記載の処理施設の概要に記載された面積,容量,使用期限を超えて産業廃棄物の処分を行ってはならない。

その後、施設使用期限である、平成15年12月31日を過ぎても、なおYが本件処分場の使用を続けたことから、福津市がYに対し、公害防止協定に基づく義務の履行として本件処分場として使用することの差し止めを求めました。

問題の所在

産業廃棄物処理施設の設置許可については、廃棄物処理法15条の2において、詳細に許可基準が定められています。それにもかかわらず、廃棄物処理法という「法律」ではない「協定」に基づいて産業廃棄物処理施設設置許可の制限をすることができるのか、つまり協定の法的拘束力が問題となりました。

原審の判断(福岡高判平成19年3月22日)

判示内容

産業廃棄物の処理については,これを業とする者(収集運搬業者,処分業者)は当該業を行おうとする区域を管轄する都道府県知事(以下「知事」という。)の許可を受けなければならないこととされ(廃棄物処理法14条),産業廃棄物処理施設(以下「産廃処理施設」という。)の設置・変更についても同様に知事の許可を要するものとされ(同法15条,同条の2の5),知事は,産廃処理施設の改善を命じ,期間を定めて施設の使用の停止を命ずることができ(同法15条の2の6),場合によっては許可を取り消さなければならず,あるいは取り消すことができる(同法15条の3)ものとされている。これは,産業廃棄物の処理は社会にとって必要不可欠な事業であるが,もしも何らの規制を加えることもなく自由競争に委ねるならば,同事業が適正に行われないこともあり得るものというべく,その場合には,関係住民の生命・健康や生活環境に重大な危険を及ぼすなど,取り返しのつかないことにもなりかねないがゆえに,上記各種の規制に服せしめることとした上で,これらの許可権限や産廃処理施設に対する監視権限(改善命令,使用停止命令,許可の取消し)等を挙げて知事に委ねたものである。」

産廃処理施設の設置許可については,同法15条の2に許可基準等が定められているところ,そこでは,同施設の設置に関する計画の技術面からの検討(1項1号),同計画及び維持管理に関する計画の生活環境面等からの検討(同2号),業者の能力面(同3号)及び不適格事由の有無(同4号)の検討がなされることとされているし,上記許可基準をめぐる規定のほかにも,生活環境の保全を全うするための規定(同条2項ないし4項)が置かれている。してみると,知事は,産廃処理施設の設置を許可するかどうかの判断に当たっては,特に周辺地域の生活環境の保全という点に十二分に留意すべきものといわなければならない。とはいえ,当該産廃処理施設の関係住民としては,同施設が設置されることによる健康被害や生活環境の悪化について不安を払拭できないのは無理からぬところであり,それゆえに,当該施設を設置しようとする業者と関係住民との間に往々にして深刻な紛争が生じ,ひいては社会公共上必要な産廃処理施設の設置がままならなくなるというようなことにもなりかねない。福岡県において,平成2年に産廃条例が制定されたのは,このような事情を配慮したからにほかならない。そして,同条例15条は,関係住民又は関係市町村の長が,施設の設置者(業者)との間で,生活環境の保全のために必要な事項を内容とする協定を締結することのあるべきことを前提にした上で,その場合には県知事が協定の内容について必要な助言をする旨を規定したものである。そうであれば,この協定が締結されると,それは,生活環境の保全という目的のために,あたかも許可条件と同じか,あるいはこれに準ずる役割を果たすことになるものと考えられる。」

「ところで,廃棄物処理法15条の2第4項は,「(15条1項の)許可には,生活環境の保全上必要な条件を付することができる」とし,これは同法15条の2の5(変更の許可等)においても準用されているから,産廃処理施設の設置・変更の許可に際して期限が付されるということもあり得ないことではないが,一般には,そのようなことはないものといってよく(特に,最終処分場の場合には,埋立容量の面から規制されることになるものと考えられる。),この点は本件処分場についての第1回変更許可においても例外ではない。しかるに,旧協定には施設使用期限条項が置かれているから,これがそのとおりの効力を有するとすれば,本件処分場についての第1回変更許可に際して許可の期限が付されたか,あるいは,当該時点をもって許可が取り消されるべきことが予定されているも同然の結果となる。しかしながら,産廃条例15条が予定している協定は,生活環境の保全のために締結されるものであって,それ以上のものではない。ところが,施設使用期限条項は,上記のとおり,許可の期限を付すか,あるいは許可の取消時期を予定するに等しいものであるから,そのような,許可そのものの運命を左右しかねないような本質的な部分に関わる条項が同協定に盛り込まれ,そのことによって許可を根本的に変容させるというようなことは,同協定の基本的な性格・目的から逸脱するものであって,本来予定されていないものというべきである。これに対しては,産廃処理施設の使用期限を定めることは,まさに生活環境の保全に関わるものであるという反論が予想される。確かに,本件処分場の使用が終了するならば,生活環境を脅かす根源が消滅することになるのであるから,この上なく生活環境の保全に資することにはなるが,廃棄物処理法及び産廃条例において「生活環境の保全」というときには,産廃処理施設が使用されることを大前提とした上で,「生活環境の保全」という要請との折り合いの付け方のいかんを模索すべきことが予定されているのであって,産廃処理施設の使用を打ち切ることによる生活環境の保全というようなことは想定外のことであるものといわなければならない。」「そうすると,施設使用期限条項は,産廃条例15条が予定する協定の内容としては相応しくないものであり,同協定の本来的な効力としてはこれを認めることはできない。この種の事柄は,知事の判断事項として知事の専権に委ねられているものというべきである。」

解説

原審は、いわゆる法律による行政という観点を重視しました。

廃棄物処理法上、廃棄物処理施設の設置や許可について、その内容が詳細に定められています。反対に言えば、廃棄物処理法の規定に従っていれば、廃棄物処理事業者がそれ以上の制約を課されないことになります。

廃棄物処理法をはじめとする法律は国会によって定められます。そして、国会議員は、国民の選挙によって選ばれます。そのため、国民が何か事業を行うにあたって規制を受けるというのは、国民(によって選ばれた国会)が定めたルールに従うということになります。

他方、ある特定地域の住民が、法律以上に厳しい制限を課した場合に、事業者がそれに従わなければならないとしたのでは、国民が定めた法律による行政のルールがねじ曲げられてしまうことになります。特に、産業廃棄物処理施設は、施設設置場所住民からは忌み嫌われ、批判のターゲットにされるものです。このような批判・法律が予定していない厳格な上乗せルールを定めたのでは、忌み嫌われながらも必要不可欠な産業廃棄物処理施設の運営が許されないことになりかねません。

そして、廃棄物処理法上、施設使用期限条項など予定していないのですから、このような制約を定めた公害防止協定の法的拘束力を否定したのです。

最高裁の判断(最判平成21年7月10日)

判示

「旧協定が締結された当時の廃棄物処理法・・・は,廃棄物の排出の抑制,適正な再生,処分等を行い,生活環境を清潔にすることによって,生活環境の保全及び公衆衛生の向上を図ることを目的とし(1条),その目的を達成するために廃棄物の処理に関する規制等を定めるものである。そして,同法は,産業廃棄物の処分を業として行おうとする者は,当該業を行おうとする区域を管轄する都道府県知事の許可を受けなければならないと定めるとともに(14条4項),知事は,所定の要件に適合していると認めるときでなければ同許可をしてはならず(14条6項),また,同許可を受けた者(以下「処分業者」という。)が同法に違反する行為をしたときなどには,同許可を取り消し,又は期間を定めてその事業の全部若しくは一部の停止を命ずることができると定めている(14条の3において準用する7条の3)。さらに,同法は,処理施設を設置しようとする者は,当該施設を設置しようとする地を管轄する都道府県知事の許可を受けなければならないと定めるとともに(15条1項),知事は,所定の要件に適合していると認めるときでなければ同許可をしてはならず(15条2項),また,同許可に係る処理施設の構造又はその維持管理が同法の規定する技術上の基準に適合していないと認めるときは,同許可を取り消し,又はその設置者に対し,期限を定めて当該施設につき必要な改善を命じ,若しくは期間を定めて当該施設の使用の停止を命ずることができると定めている(15条の3)。これらの規定は,知事が,処分業者としての適格性や処理施設の要件適合性を判断し,産業廃棄物の処分事業が廃棄物処理法の目的に沿うものとなるように適切に規制できるようにするために設けられたものであり,上記の知事の許可が,処分業者に対し,許可が効力を有する限り事業や処理施設の使用を継続すべき義務を課すものではないことは明らかである。そして,同法には,処分業者にそのような義務を課す条文は存せず,かえって,処分業者による事業の全部又は一部の廃止,処理施設の廃止については,知事に対する届出で足りる旨規定されているのであるから(14条の3において準用する7条の2第3項,15条の2第3項において準用する9条3項),処分業者が,公害防止協定において,協定の相手方に対し,その事業や処理施設を将来廃止する旨を約束することは,処分業者自身の自由な判断で行えることであり,その結果,許可が効力を有する期間内に事業や処理施設が廃止されることがあったとしても,同法に何ら抵触するものではない。したがって,旧期限条項が同法の趣旨に反するということはできないし,同法の上記のような趣旨,内容は,その後の改正によっても,変更されていないので,本件期限条項が本件協定が締結された当時の廃棄物処理法の趣旨に反するということもできない。」

「そして,旧期限条項及び本件期限条項が知事の許可の本質的な部分にかかわるものではないことは,以上の説示により明らかであるから,旧期限条項及び本件期限条項は,本件条例15条が予定する協定の基本的な性格及び目的から逸脱するものでもない。」

「以上によれば,福間町の地位を承継した上告人と被上告人との間において,原審の判示するような理由によって本件期限条項の法的拘束力を否定することはできないものというべきである。」

解説

最高裁は、「処分業者が,公害防止協定において,協定の相手方に対し,その事業や処理施設を将来廃止する旨を約束することは,処分業者自身の自由な判断で行える」という点を強調し、公害防止協定を、一私人である廃棄物処理事業者と協定の相手方(市)が自由な意思に基づく「契約」であるとの考えを根底として、公害防止協定の法的拘束力を認めました。

廃棄物処理法という規制法による規制が許されるかという規制法的アプローチではなく、自分自身が決めた約束(契約)に従うのは当然であるという契約的アプローチにより、公害防止協定の法的拘束力を認めたのです。

契約において期限を定めたのであれば、契約当事者は当然その期限についての定めに拘束されるのは当然です。

(公害防止協定という契約的なものが過度な制約であって公序良俗に反しないかとの論点もありますが、本コラムではあえてその点は省略します。)

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■この記事を書いた弁護士
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 平栗 丈嗣
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