
令和7年度は下請法(取適法)違反があるとして、実に39件もの勧告が行われました。公正取引委員会の動向や、勧告を受けた違反行為の種類や内容を把握することで、今後の企業活動に活かすことができると思いますので、是非ご一読ください。
1 取適法(下請法)に関する、ある「変化」

今年の1月1日から、下請法が取適法と名前を変え、何かと話題になることが多くなりました。
そのような中で、法改正とは別に、明確に変わったと感じることがありました。
それが、下請法(取適法)違反の勧告件数の多さです。
2 令和7年度は勧告件数が急増

下請法(取適法)の勧告事例については、基本的に全件が公正取引委員会のホームページで公開されています。
一番古いものでは平成23年度のものから公開されており、そこから最新のものまでが公開されています。
これについて順を追って見てみると、平成23年度〜平成25年度は18件、16件、10件の勧告が行われていましたが、平成26年度から令和4年度にかけては(平成28年度の11件を除いて)年間の勧告件数は1桁台、すなわち10件未満となっています。
そのため、下請法違反による勧告は、指導ではおさまらないような、極めて悪質な場合に限り行われるものだというイメージもあったものと思われます。
ところが、令和5年度になると前年の2倍以上の勧告件数となる13件の勧告が行われ、令和6年度には20件の大台を突破し21件になりました。
そしてさらに、最新の令和7年度は、驚くべきことに39件もの勧告が行われました。
前年比でも約2倍ですし、令和4年度までと比べればその差は歴然です。
これはおそらく、企業間の取引において下請法(取適法)に違反するような行為が増えたということではなく、取り締まる側である公正取引委員会の法運用の傾向が変わったということだと思われます。
すなわち、近年においては、法改正を行ってより実効的な取引の公正化を目指すとともに、制度の運用も積極的に行うことで(あるいは積極的に運用している様をアピールすることによって)両面から取引の公正化を実現しようとしているのではないかと思われるということです。
そのため、取適法(下請法)違反による勧告については、もはや極めてレアなケースに限られるものではなく、企業活動を行う上ではより一層法遵守のスタンスが求められるということになるのではないでしょうか。
3 令和7年度の勧告事例のトレンドは?

このような傾向の変化を踏まえた上で、令和7年度には、どのような取引上の行為が特に問題視されたのか、整理してみたいと思います。
上記でも少し述べましたが、令和7年度の勧告事例は全部で39件ありました。
このうち最も多い違反類型は「不当な経済上の利益の提供要請の禁止」でした。
下請法(取適法)違反のうち、実体規定への違反件数(勧告のみならず指導を行った場合も含みます。)は、例年、支払遅延がダントツでトップとなっており、次点が代金の減額、買いたたきと続きますから、ここも今年は少し特徴的だったように思います(執筆時点で令和7年度の運用状況は発表されていませんが、勧告の件数が多かったということもあり、近年よりも「不当な経済上の利益の提供要請の禁止」の違反件数の割合が増えているか注目です。)。
以下では、さらに具体的に違反行為の内容を見ていきます。
(1)金型等の無償保管
まず、令和7年度において圧倒的に勧告件数が多かったのが、「金型等を無償保管させていた」というケースです。
これがなんと、39件中、3分の2に当たる26件のケースで指摘されています。
近年、型取引のうち、製造に使用するための金型、木型、樹脂型、治具等(以下、「金型等」といいます。)を、下請事業者(中小受託事業者)に長期・無償で保管させているという状況が問題視されており、公正取引委員会や中小企業庁は、型取引の適正化に向けて、様々なメッセージを発信していました。
そのような中、令和4年度(令和5年3月)に、岡野バルブ製造株式会社に対して、下請事業者に金型等の無償保管をさせていたことが不当な経済上の利益の提供要請の禁止に当たるとして勧告が出されました。
これが、金型等の無償保管についての初の勧告事例となりました。
この勧告を皮切りに、令和5年度は3件、令和6年度は8件、金型等の無償保管について勧告がなされ、令和7年度は26件にまで跳ね上がったという状況です。
金型等の無償保管について、公正取引委員会は引き続き注視する旨のメッセージを発信しており、令和7年には、改正下請法(取適法)施行に先んじて、下請法の運用基準や「よくある質問コーナー」を改正し、適正な対価を伴わない金型等の保管については不当な経済上の利益の提供要請に当たり得ると、具体例を添えて解説しています。
金型等の保管要請がこの禁止類型に当たるかどうかはケースバイケースの判断となりますが、特に典型例となりつつあるのは「すでに長期間、その型を使った部品等の製造を発注しておらず、次回以降の具体的な発注時期も示せない」といったケースです。
自社と取引先との間で、こういった事例が無いかどうか、今一度ご確認頂ければと思います。
(2)自動車販売業界に対する集中調査

次に令和7年度において特徴的だったのは、自動車の販売会社に対する勧告が4件あったことです。
自動車業界に対しては、令和7年度、「自動車ディーラー及び車体整備事業者間の取引における下請法違反被疑事件の集中調査」というものが行われました。
この調査によって、160件もの指導が行われているらしく、上記勧告は、この流れを組むものと思われます。
勧告事例における具体的な違反行為の内容は、①自動車販売会社が、販売する自動車の加工(板金加工など)や修理(お客様から預かった車体の修理など)を車体整備事業者などに委託するときに、その車体や引取部品について無償で運送させていた、というものと、②お客様から修理車両を預かるときなどにお客様に対して提供する代車を、修理委託先の事業者に無償で提供させていた、というものが挙げられています。
いずれも、下請事業者(中小受託事業者)に契約外の行為を無償でさせていることになり、不当な経済上の利益の提供を受けていたと評価されたようです。
令和7年度に勧告を受けたのは自動車業界でしたが、「契約外にもかかわらず無償で運送・運搬させていた」という行為類型は、どの業界でも生じうるものかと思われます。
自社の取引において、そういった「無償で契約外のことをさせている」ケースが無いかどうか、ご注意頂ければと思います。
(3)「返品」事例も多い
最後に、令和7年度の3つ目の特徴は、「返品の禁止」に該当した勧告事例が6件あったというところです。
下請法(取適法)における「返品」は、それが許される場面がかなり制限されており、特に製品等の受領時に品質に関する受入検査を行わない・省略する場合には、例え受領した製品に契約不適合(以前は「瑕疵」と呼ばれていましたが、民法改正に合わせて用語が変わりました。)があったとしても、返品は不可とされています。
令和7年度に勧告を受けた事例のうち4件は、受入検査が行われていなかったということですから、例え契約不適合があったとしても、下請法(取適法)上は返品が禁止されます。
また、受入検査を行い不良品が発見されたとしても、全数検査の場合は当該不良品のみが返品の対象となり、ロット単位での抜き取り検査を行った場合には当該ロットのみが返品の対象となります。
その日に納入された全数が自動的に返品可能となるわけではありませんので、この点も押さえておいて頂ければと思います。
こういった返品に関する下請法(取適法)のルールの遵守状況についても、令和7年度は勧告件数が多かったことから、公正取引委員会が特に注視していたという可能性があるように思います。
そのため、是非皆様におかれましても、漫然と返品していないかどうか、ご注意頂ければと思います。
4 令和8年度はどうなるか

上記では令和7年度の勧告の状況を見てきました。
それでは、令和8年度はどうなっていくでしょうか。
これはあくまで私見ですが、(執筆時点ではじまったばかりの)令和8年度においても、勧告件数は相当数になるのではないかと感じています。
今年1月1日から、新しく取適法が施行となりましたが、これはあくまで下請法を改正したもので、内容が大きく変わったものではありません。基本的に、下請法で違法だったものは、取適法でも違法であるとイメージして頂いて差支え無いかと思います。
そのため、従前から違反行為を続けてきたような事例については、引き続き指導や勧告の対象となるものと考えられます。
もちろん、取適法施行により多くの注目を浴びたことで、これをきっかけに勧告を受ける前に是正するという例も多くあるものと思いますが(そのように期待しますが)、公正取引委員会としては引き続き積極的な取り締まりを行い、適正取引を目指す流れを加速していきたいと思っているはずです。
そうすると、以前のような年数件という勧告件数にはとどまらず、積極的な調査や運用を行っていくのではないかと考えられます。
また、取適法で新たに禁止行為として追加された「協議に応じない一方的な代金決定の禁止」に関しては、令和8年度中にこの勧告事例が出るかは分かりませんが、「価格転嫁」を推し進めていきたいという思惑がある以上、数年後には勧告のトレンドとなる可能性があるように思います。
「買いたたき」とともに、適切な価格協議・価格決定を行っていけるよう、是非今から意識して取り組んで頂くと良いかと思います。
さらに、取適法では新たに「特定運送委託」も対象取引に追加されました。
この流れを受けて、運送業界に関する取引(※)も、公正取引委員会の関心の中心になっていく可能性があるように思います。
※運送業界の場合は、運送事業者が委託事業者及び中小受託事業者となる役務提供委託の場合と、運送事業者が中小受託事業者になる特定運送委託の場合の2面から、取適法の遵守が求められます。
5 まとめ

いかがだったでしょうか。
今回は、取適法の法の内容で変更があった部分ではなく、法の運用で変わったところがあるという視点で、令和7年度の勧告事例の傾向をお伝えしました。
取適法は、資本金基準または従業員基準を満たし、委託の内容が適用対象に当てはまれば、どのような業種・事業者にも適用があります。
適用がある場合には11の禁止行為が課されますし、勧告を受けてしまうと公正取引委員会のホームページにおいて企業名入りで公表されてしまいますから、ぜひ、自社や自社の取引が適用対象に当たらないかどうか、取適法上問題がないかどうか、ご確認頂ければと思います。
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