紛争の内容
勤務先会社と交わした示談の不履行、裁判上の和解に基づく分割返済
元従業員と会社は、会社への損害賠償請求5000万円について、20年近く前に、長期分割で支払う旨の示談書を交わしていました。
しかし、10年経たずして、債務者は支払を滞るようになりました。
そこで、当事務所が代理人となり、平成25年に地裁から勝訴判決を得、控訴した債務者との間で、平成27年高等裁判所において、改めて、裁判上の和解を交わしました。
2023年12月の分割金の支払いを最後にまた滞納がありました。
手続の経過
1 債務者の死亡
裁判上の和解を交わした債務者が死亡し、相続が発生したことが判明しました。
今後については、裁判上の和解を交わしたことによる、和解調書がありましたので、これを債務名義として、強制執行するにも、まずは、相続人を調べ、その相続人に対し、支払い催告し、期限の利益を喪失させ、一括請求、不動産競売申立等の強制執行申立をするかを検討していました。
2 配偶者相続人、第1順位相続人の限定承認
債務者は、自宅不動産を保有していました。
相続人の代理人弁護士から、相続債務の調査の連絡があり、債務残高を、控訴審でかわした和解調書、これまでの支払い状況の一覧などを祖せて、残債務額1300万円余りと回答しました。
債務者は、事業も行っていたようでありましたので、相続人らは、相続放棄をするのではないかと想定していましたところ、債務者の相続人の代理人弁護士から、家庭裁判所に、限定承認の申請をし、受理されたとの連絡がありました。
限定承認とは、被相続人の相続財産の限度で、相続債務を引き継ぐ制度です。
3 限定承認による、相続財産清算人選任
債務者の相続人全員で、家庭裁判所に、発生した本相続について限定承認の申出を行い、裁判所に受理されました。
その後、その相続人が、相続財産清算人に選任されました。
相続財産清算人の代理人として、債権債務調査の担当であった弁護士が代理人に就任し、手続を進めていくと連絡がありました。
4 相続人が限定承認を選択する理由
限定承認を選択すると、相続債務の弁済んために、相続財産を競売手続で換価しなければならないのが原則(民法932条本分)ですが、相続人らは、被相続人が所有していた自宅不動産を、先買権(民法932条但書)によって、不動産鑑定評価額によって、購入し、居住し続けるためとして、保有していた被相続人の自宅不動産を手元に置くことをもくろんだのでないかと推測しました。
そして、この競売手続や鑑定手続には、債権者も関与できることになっています。
すると、やはり、不動産鑑定士が選任されました。
選任された鑑定士が、不動産鑑定評価を行い、その金額で、相続人らが購入取得することが可能となったかは、清算人の(相続人)代理人の連絡を待つことにしました。
しかし、相続人は先買権を行使することはなかったようであり、本件遺産不動産の競売手続開始決定が地方裁判所からなされた旨の連絡がありました。
5 遺産不動産の競売手続の意味
この競売手続は、限定承認した遺産の換価手続として、競売手続を利用したものです。これを形式的競売といいます。
この競売手続で、限定承認した相続人が入札できるかについては、入札することが可能となっています。
一般の強制競売(例えば、債務者が支払わないので、債権最終の手段として、裁判などで判決などの債務名義を得た債権者が競売申立をする場合や、担保物競売(例えば、住宅ローンを滞納してしている所有者物件を、その住宅ローン債権者が担保権を設定している土地建物の競売手続を求める場合には、債務者(兼所有者)には、当該競売物件を入札する資格はありません。
他方、本件のような形式的競売手続については、限定承認した相続人の遺産不動産における共有関係の解消のために、共有物を裁判所の手続で売却するというように、財産の換価換金のために、裁判所の競売手続を利用する場合です。
このような場合には、本件相続人も入札に参加できます。債務の弁済のためではなく、遺産不動産の換価換金のためであるからです。
限定承認をした相続人らは、家裁の選任した不動産鑑定士の評価額での買受を選択しなかったようです。
しかし、この形式的競売手続を利用して、手続の売却基準価格や期間入札価格での拠り、低い金額での入札をもくろんだのかなと推測しました。
6 配当通知
相続財産清算人の代理人弁護士から、配当の通知、回答書、配当表、収支計算書が添えられて、連絡がありました。
清算人の代理人弁護士からの連絡によれば、①配当財産(配当の対照となる相続財産)は、金2400万円弱であり、依頼者会社への配当金(配当額)は、金850万円弱、その配当割合(配分率)は36.31%とのことでした。
相続財産清算による配当は、破産手続による配当などとは異なり、厳密な規定が整備されていません。
そこで、清算人代理人からの連絡は、この配当は、すべての債権者の同意が得られた場合に行うという留保がついておりました。当債権者としては、異存はありませんでしたので、承認する旨の回答をし、振込先などの指定、その他必要書類を準備して、同代理人事務所に送付しました。
本事例の結末
相続財産清算人代理人の提示したスケジュールのとおり、相続債権者への一斉送金予定日に送金をする旨の連絡がありました。依頼者担当者に、着金確認をしてもらい、その完了報告を受けました。
本事例に学ぶこと
多額の債務を負った債務者に相続が発生した場合、債権者としては、相続人らの相続放棄の有無を調査することになります。
相続を承認した相続人があれば、その相続人に対して、支払い催告からの債権回収を行います。
相続財産の価額よりも、相続債務が大きい、債務超過の場合には、ほとんどの方は相続放棄を選択する場合が多いものですが、相続人が被相続人の相続財産おうちから、特定の財産を取得を望む場合に、相続財産の限りで、負債(相続債務)を承継する、限定承認を選択する場合があります。
その場合には、限定承認をした相続人は、相続財産清算人に選任され、相続財産の清算業務を行います。
清算人の業務は、やはり、関係法令に精通した法律専門家でないと対応が難しいものです。
本事件は、債権者代理人としての関与でしたが、私は、法律相談をした弁護士から、相続放棄をしないで、限定承認という制度があるという説明をしただけで、限定承認後の相続財産清算人の業務の説明受けなかったために、相続財産清算人としての業務の依頼を受けたことがあります。
今回の事例は、おそらく、遺産不動産を相続人が取得するという、先買権の行使を利用するために限定承認を選択したように受け止めました。
相続発生後の、相続の証人・法規の問題や、債務者に相続発生した後の、債権回収などの問題についても、当事務所所属の弁護士は多くの経験を有しており、適切なアドバイス、また、ご依頼を受ければ適切に処理させていただきますので、ぜひともご相談、ご用命ください。
弁護士 榎本 誉








