
2026年(令和8年)4月1日から、新しい区分所有法が施行されました。改正法はこれまで区分所有者が持つ権利だけ定めていたところを、義務も定める内容にした上、国内にあるマンションの原状を踏まえた制度を創設するなど、マンション管理に関する重大な変更を含んでいます。また、マンションの総会の議決についてなども大きな変更点がありますので、今回は前回に続き、この法改正について概要の後編を解説していきます。
2026年(令和8年)施行の区分所有法改正の概要(後編)

マンションにおける特別な財産管理制度
不動産について、特別な管理を要する場合、一般法である民法にも「所有者不明土地・建物管理制度」などがありますが、マンションは区分所有法という特別法がありこの制度の対象外とされていました。しかし、実際にはマンションの所有者が誰か分からない、あるいはどこにいるか分からないという事態はありましたので、そのような事態に対応するため、区分所有法にて新たな制度が特別に定められました。
所有者不明専有部分管理制度(法§46の2)
区分所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができない専有部分について、裁判所が管理人を選任する という制度です。概要は以下のとおりです。
ア 申立人…利害関係人
対象とされている専有部分の管理について利害関係を有する者
例)専有部分が適切に管理されないために不利益を被るおそれがある他の専有部分の区分所有者、管理者・管理組合法人(規約又は集会の決議による)
専有部分の共有者の一部が不特定又は所在不明である場合の他の共有者
イ 要件
①区分所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができない専有部分
②必要があると認められること
例)所有者不明専有部分を現に管理している者が誰もいないとき
ウ 管理人
管理人が行う具体的な職務内容を勘案して裁判所が判断して選任
例)売却代金額の相当性を判断、複数の共有者がいる共有持分を対象として誠実公平に義務の履行を確保すべき場合等…弁護士や司法書士などの専門家
エ 管理の範囲
当該専有部分、その共有持分、附属施設若しくは建物の敷地にある動産、共用部分及び附属施設に関する権利並びに敷地利用権
オ 管理人の権限・義務
上記エの管理、処分その他の事由により所有者不明専有部分管理人が得た財産(売却代金等)の管理処分権を有する
管理人において、保存行為又は所有者不明専有部分等の性質を変えない範囲内の利用・改良行為の範囲を超える行為をするには、裁判所の許可を得なければならない
集会において議決権を行使も可することもできる
また、所有者不明専有部分等の所有者のために、善管注意義務を負う
管理不全専有部分管理制度(§46の8)及び管理不全共用部分管理制度(§46の13)
区分所有者による専有部分又は共用部分の管理が不適当であることにより他人の権利又は法律上保護される利益が侵害され、又は侵害されるおそれがある場合に、裁判所が、利害関係人の請求により、管理人による管理を命ずる制度です。
制度の概要は以下のとおりです。
ア 申立人 利害関係人
管理不全専有部分管理命令の例)専有部分の配管が腐食したまま放置され、他の専有部分や共用部分への漏水被害を生じさせるおそれがある場合における当該他の専有部分の区分所有者や管理者・管理組合法人、
管理不全共用部分管理命令の例)当該区分所有建物の区分所有者や管理者・管理組合法人、共用部分の管理不全により被害を受け、又はそのおそれがある近隣住民など
イ 要件
管理不全専有部分管理命令の要件:①専有部分の管理が不適当であることによって他人の権利又は法律上保護される利益が侵害され、又は侵害されるおそれがあること、②必要があると認められること
例)放置された専有部分の配管が腐食し、他の専有部分への漏水被害を生じさせるおそれがある
管理不全共用部分管理命令の要件:①共用部分の管理が不適当であることによって他人の権利又は法律上保護される利益が侵害され、又は侵害されるおそれがあること、②必要があると認められること
例)配管の腐食による漏水被害を生じさせるおそれがあるとして配管の修繕を行うべき場合
ウ 管理人として想定される者(専有部分・共用部分共通):
管理不全状態にある専有部分を適切に管理する職務を行うに当たって法的判断が必要となるようなケースでは、弁護士や司法書士、専有部分を適切に管理するため、区分所有建物の管理についての知見を有する管理業者や区分所有建物の管理者、マンション管理士等
エ 管理命令の及ぶ範囲:対象とされた専有部
専有部分の保存・管理の円滑化

さらに、改正法では専有部分についても、当該占有部分を有する区分所有者だけではなく、第三者が保存・管理行為をするための制度を設けました。
専有部分の保存請求(法§6Ⅱ前段)
旧区分所有法では、他の組合員の専有部分の保存行為(例 専有部分内の給排水管修補)などについて、規定がありませんでした。
これに対し、改正区分所有法では、自己の専有部分や共用部分の保存のために、他の組合員の専有部分の使用・保存請求が可能になりました。
ただし、請求を受けた相手(当該専有部分の区分所有者)が立ち入りや修補を拒否した場合、無断で立ち入り等できるわけではなく具体的に妨害予防請求訴訟や保全処分をしなければならないという点には注意が必要です。
専有部分の使用等を伴う共用部分の管理(法§18Ⅳ)
共用部分の管理・変更に伴い必要となる専有部分の保存行為または性質を変えない範囲内での利用・改良行為が、規約の定めにより、集会の決議(普通決議)で可能になりました。
例)専有部分に属する給排水管等を含めた一括交換工事
管理組合法人による区分所有権等の取得の明文化
旧区分所有法では、管理組合法人が区分所有権等を取得するということが、その存在の目的の範囲内であるか否か明文がありませんでした。しかし、実際には管理組合法人がマンションの一戸(区分所有権)を取得しているケースはあり、必要と思われる場合があったのです。
そこで、改正区分所有法では集会の特別決議により、管理の必要性・限定的対象(当該マンションの区分所有権またはそのマンション棟と一体として管理使用される土地)であること、という要件を満たせば、マンション管理組合法人自身が、区分所有権等を取得可能であると明記されるようになりました。
国内管理人制度(法§6の2Ⅰ)
組合員が国内に住所等を有せず、又は有しないこととなる場合には、その専有部分及び共用部分の管理に関する事務を行わせるため、国内に住所等を有する者(法人も可)を選任する制度です。
この国内管理人を選任した場合は、遅滞なく、管理者又は管理組合法人に対し、国内管理人を選任した旨並びに国内管理人の氏名又は名称及び住所又は居所を通知しなければならないとされています。
ただし、法律上は国内管理人の選任は「義務」ではなく、国内に住所等がない組合員であっても、必ず選任しなければならないというわけではありません。この点、管理規約により、国内管理人の選任を義務付けることは可能と考えられており、海外居住をする組合員がいるというマンションでは、管理規約の規定を改めて義務化するなどの対応が必要と思われます。
その他、国内管理人の制度の概要は以下のとおりです。
国内管理人の権限(§6条の2Ⅱ):
①保存行為
②専有部分の性質を変えない範囲内で、その利用又は改良を目的とする行為
③集会の招集の通知の受領
④集会における議決権の行使
⑤共用部分、建物の敷地若しくは共用部分以外の建物の附属施設につき他の区分所有者に対して負う債務又は規約若しくは集会の決議に基づき他の区分所有者に対して負う債務の弁済
組合員と国内管理人との間の合意で上記法定の権限以外の権限を付与することも可能でしょうが、法定の権限の全部又は一部を「与えない」とする合意は無効と考えられます。
なお、国内管理人は、管理費等の債務の弁済権限を有するが、国内管理人自身が債務を弁済する義務を負うわけではないので、管理費等請求訴訟の被告にはなれず、また訴訟の訴状の送達先とはできない(組合員自身が国内管理人を送達受取人として受訴裁判所に届け出ることは可能・民事訴訟法§104Ⅰ後段)という点は注意が必要です。
共用部分等に関する請求権行使の円滑化

管理者による代理権等の行使についての明文化(法§26Ⅱ)
マンションの共用部分等に関して生じた損害賠償や不当利得、保険金についてマンション内の区分所有権が売却された場合、新たな組合員が加わった場合でも管理者に上記の請求代理権・訴訟追行権を認めています。
これは、ごく当たり前のような気もするのですが、実は裁判例により、「組合員の構成が変わった場合、請求代理権等がマンション管理者には認められず、組合員『全員』で訴訟をするほかない」というおよそ実現困難と思われる判断がなされたことがあり、以前からこのような代理権の明文化が求められていたため、今回法改正により実現されたものです。
規約等に関するデジタル化(法§33Ⅲ前段)
管理規約等につき、閲覧請求者の承諾がある場合には、電磁的方法による規約の閲覧(電子メールに違約データを添付して送信する等)も認められるようになりました。
マンションの再生の円滑化

建替え決議について
区分所有建物に建替えの必要性が高い一定の客観的事由が存在する場合には、多数決割合を4分の3に引き下げられることになりました。
(1)特別な場合の多数決要件の緩和(法§62Ⅱ①~⑤)
①地震に対する安全性に係る建築基準法等への不適合
②火災に対する安全性に係る建築基準法等へ不適合
③外壁、外装材その他これらに類する建物の部分が剥離し、落下することにより周辺に危害を生ずるおそれがあるものとして法務大臣が定める基準に該当
④給水、排水その他の配管設備等の損傷、腐食、その他の劣化により著しく衛生上有害となるおそれがあるものとして法務大臣が定める基準に該当
⑤高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律の基準に不適合
(2)建替え決議時の賃貸借終了(§64の2)
また、建て替え時に従前のマンションの賃借人の立場がどうなるかという点が問題なっておりましたが、建替え決議時に、専有部分の賃貸借終了請求が可、請求日から6か月経過により賃貸借を終了させられるようになりました。
賃借人側は賃貸借の終了により通常生ずる損失の補償金を受け取れ、補償金の提供を受けるまでは専有部分の明渡し拒否できることになっています。
建物の更新(一棟リノベーション)
マンション再生の方法として、建替えだけでなく、一棟リノベーション工事に関する決議を創設しました。要件は建替えと同様です。
敷地売却、建物取壊し敷地売却、建物取壊し(法§64の6~8)
建替え決議と同一の要件の下で、決議可能になりました。
団地の管理・再生の円滑化
団地についても、単棟型のマンションと同様に以下のような改正がされました。
(1)団地の一括建替え決議の多数決要件緩和(§70Ⅱ、70Ⅰ但書)
(2)団地内建物の建替え承認決議(§69Ⅰ、Ⅷ)
(3)団地内建物、敷地の一括売却(§71Ⅰ)
現行の区分所有法で定められている団地内の建物の一括建替え決議に加えて、①団地内建物敷地売却決議、②団地内の建物が滅失した場合における一括建替え等決議、③団地内の全部の建物が滅失した場合における一括敷地売却決議が可能になりました。
グリーンリーフ法律事務所は、設立以来35年の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。
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この記事を書いた弁護士:弁護士 相川 一ゑ
マンション法
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所所属、埼玉弁護士会所属の弁護士。平成21年登録。
令和4年、管理業務主任者試験及びマンション管理士試験に合格、同年よりマンション管理士登録。数多くのマンション管理組合から依頼を受け、管理費等請求・区分所有法に基づく競売事件などを担当。






