
近年、企業における従業員のメンタルヘルス対策の重要性が高まっていますが、なかでも対応に苦慮するのが管理職のメンタルヘルス不調です。一般社員の休職対応と異なり、管理職の場合は特に注意を払う必要が生じる場面がありますので、ご紹介をいたします。
管理職の休職においては、一般社員の休職対応とは異なり、下記の特有の問題があります。
- 業務の代替性が低いため、休職による現場の業務停滞や他の部下への負担集中のおそれがある一方で、安全配慮義務に従って、管理職の健康を守らなければならない。
- 長時間労働や過度の業務負担による労働災害によって、精神疾患を発症した可能性がある。
- 復職をさせるか否か、また、復職が可能であっても管理職ではなく一般職として復職をさせるか否かを、判断しなければならない場面がある。
これらの問題を、以下で解説いたします。
1 安全配慮義務について

管理職は自身の不調を隠そうとしたり、「自分が休むと現場が回らない」と無理を重ねたりする傾向があります。他方で、会社側には、労働者の健康状態に配慮すべき安全配慮義務が課せられています。本人が「大丈夫です」と言っていても、以下のような客観的サインが見られる場合、会社は放置できません。
・欠勤や遅刻・早退が急増している
・業務上の重大なミスや判断力の低下が顕著である
・勤怠データ上、著しい長時間労働が続いている
このような場合、会社は受診を勧奨するか、プライバシーに配慮しつつ受診命令(指定医や産業医の受診)を発令し、受診結果を踏まえて休職を勧奨し、場合によっては休職命令を検討する必要があります。これらの対応が、結果として会社の損害賠償リスク(安全配慮義務違反)を防ぐ防波堤となります。
2 労働災害による精神疾患発症への対応

長時間労働や過度の業務負担が原因で精神疾患を発症した場合、労働災害によって精神疾患を発症したと認定される可能性があります。この場合、労働基準法19条により、休職期間中およびその後30日間の解雇・退職処理は制限・禁止されます。
また、労働災害の場合、会社の安全配慮義務違反が認定されるおそれがあり、その場合、後遺障害に伴う減収による逸失利益、入通院慰謝料、後遺障害慰謝料、労災保険の給付によっても填補されない治療費及び休業損害等を損害賠償として請求される恐れがあります。
厚生労働省が、労働災害による精神疾患を認定するための基準を公表しており、これらの基準によって、長時間労働や過度な業務負担が無かったかをチェックして、労働災害の認定を行いますので、管理職のメンタル不調が発生した場合には、これらの基準に従って労働災害の認定の可能性を検討する必要が生じます。
3 復職をさせるか否か

管理職の休職でトラブルになりやすいのが、「復職できる状態(治癒)といえるか否か」の判断です。主治医が「復職可能」とする診断書を出してきたとしても、会社はそれを鵜呑みにする必要はありません。
裁判所の判例実務では、復職における「治癒」とは単に日常生活が送れることではなく、「休職前の職務(管理職業務)を通常の程度に行える程度に回復したこと」を指すとされているためです。
復職判断のポイント、及び、実務上の対応と留意点
・主治医診断書の確認
診断書に「管理職としての業務(部下指導や判断業務、残業等)に耐えうるか」が書かれているか確認する。
・産業医及び第三者の専門医に対する意見の確認
会社の状況を把握している産業医(または会社指定医)に意見を求め、主治医の判断と異なる場合には、第三者の専門医の意見を求めることも検討する。この場合、第三者の専門医は、従業員から見ても、公平であり、かつ社会的に評価された医師を提案する。
・「軽易な業務への配置転換」の検討
管理職としての復職が困難な場合でも、「配置可能な他の軽易な業務(一般職等)があり、本人がそれを希望しているか」を検討しなければ、休職満了による退職・解雇が無効とされるリスクがあるため、検討を行う。
4 一般職として復職をさせるか否か

主治医や会社側産業医の意見から「軽微な業務(軽減勤務)であれば復職可能」と判断された場合、完全な治癒(従前業務を通常通り遂行できる状態)には至っていないため、雇用契約書において職務内容が管理職に限定されていない限りは、会社は職務内容の変更(軽微な業務への配置転換)を命じることができます。
他方、契約書によって職務内容が管理職に限定されている場合は、他の職種への変更を申し入れ、従業員がこれを拒否する場合は、退職の処理をすることになります。
配置転換に伴う役職解任や業務負担軽減に応じた給与改定(減給)を理由に、労働者が職種の変更を拒否する場合の、法的な位置づけ、具体的な対処の手順、及び、拒否が続いた場合の対処法は、以下の通りです。
法的な位置づけ
・配転命令の有効性
傷病休職からの復職において、従前の職務(管理職等)を果たすことが困難な場合、労働能力に合わせた業務への配転・降格命令は、業務上の必要性および合理性が認められやすく、使用者の人事権の範囲内とみなされるケースが一般的です。
・減給の合理性
就業規則や賃金規程に「降格や職務変更に伴う役職手当の非支給・基本給の減額」があらかじめ定められていれば、実質的な労働給付の減少(業務負担の軽減)に応じた減給措置は適法と判断されやすいです。
・職種限定がある場合の退職処理
雇用契約書上、管理職への職種限定があり、管理職への復職が困難な場合は、休職期間満了による退職処理へ進むことができます。会社から別の職種への転換を申し入れても従業員がこれを拒否する場合は、退職処理をすることができます。
段階的な対処プロセス
・就業規則と賃金規程の再確認
休職・復職規定、降格・配転規定、および役職手当や職能給の減額ルールがあらかじめ明確に定められているか確認します。根拠規定が存在する場合、それを提示して労働者に説明を行います。
・医師の意見書の精査と協議
主治医および産業医から「どのような業務であれば可能か」「どのような負荷(残業、対人交渉、管理業務など)を避けるべきか」の具体的医学的見解を取得します。従前業務の継続が健康上のリスクとなることを客観的なデータとして示します。
・丁寧な説明と同意取得の努力
減給は不利益変更に見えるものの、「病状に配慮し安全に勤務を継続するためのステップ(段階的復職)」であることを伝えます。将来的に体調が完全回復し、従前の業務を遂行できるようになれば、再び元の役職や処遇に戻る可能性があること(条件やプロセスの提示)を伝え、不安を和らげます。
配転・減給拒否が続く場合の対処法
配転(軽微な業務への従事)を拒否し、従前の業務への復帰のみを主張する場合、現時点では「完全な治癒(従前業務の遂行能力)」に達していないため、復職要件を満たしていないと判断せざるを得ない旨を説明します。
そして、休職期間満了による退職の手続きに進む可能性があることを法的な根拠とともに明確に提示します。それでも拒否が続くようであれば、退職処理の手続きを行います。
5 休職期間満了に伴う退職プロセスのチェック

復職が不可能と判断し、休職期間満了による退職処理を行う場合は、以下の要件を事前にクリアしているかをチェックしてください。
就業規則の根拠
「休職期間が満了しても休職理由が消滅しないときは退職とする」旨の規定が存在するか。
休職手続きの正当性
休職開始時の命令・通知手続が適正に行われていたか。
安全配慮義務違反の有無
そもそもメンタル不調の原因が「会社側の過酷な長時間労働」や「上司からのパワハラ」等に起因するものでないか(労災に該当する場合、労働基準法19条により休職期間中およびその後30日間の解雇・退職処理は制限・禁止されます)。
6 まとめ

管理職のメンタルヘルス不調は、現場の業務への影響が大きいだけでなく、休職・復職・退職の各ステップで高度な法的判断が求められます。従業員への対応にお悩みの経営者様・人事ご担当者様は、トラブルが深刻化する前に、ぜひご相談ください。
グリーンリーフ法律事務所は、設立以来35年の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。
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この記事を書いた弁護士:弁護士 村本 拓哉
労働問題(使用者側)
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所所属、埼玉弁護士会所属の弁護士。
平成26年登録後、労使案件を中心に多数の案件に対応。問題社員への対応、配転、懲戒処分、解雇、残業代請求等、労使問題の解決に精通し、労使問題に関する講演実績も有する。交渉、労働審判、訴訟等、紛争解決のための手続に対応。自ら経験した事件や裁判例に基づき事件の進行方法を検討しつつ、依頼者の話す内容に耳を傾け、より良い解決策がないかを検討することを心がける。






