産業廃棄物処理の許可申請で自治体から求められる「地元住民の同意書」。実は廃掃法上、住民同意は許可要件ではありません。同意が得られない場合の行政指導の法的限界と実務上の対策を、実損害が認められた重要な判例を交えて解説します。。

はじめに:廃棄物ビジネスの前に立ちはだかる「住民同意」の壁

新規に産業廃棄物の収集運搬業や処分業を始めようとする企業、あるいは自社で新たに産業廃棄物処理施設を設置しようとする企業にとって、最初に直面する最も大きなハードルの一つが「周辺住民からの反発」です。

産業廃棄物処理施設は、社会的に必要不可欠なインフラである一方で、一般的にはいわゆる「嫌悪施設(近隣に設置されることが忌避される施設)」とみなされがちです。そのため、計画が持ち上がると、周辺住民や地元自治会による激しい反対運動が起きることが珍しくありません。

こうしたトラブルを未然に防ぐため、多くの地方自治体(都道府県や市町村)では、条例や独自の「指導要綱(行政指導の指針)」を設けています。そして、許可を申請しようとする事業者に対して、「事前に周辺住民や地元自治会の説明会を開催し、その同意を得て、同意書を提出すること」を強く指導するケースが日常的に見られます。

しかし、ここで事業者の前に重くのしかかるのが、「いくら説明を尽くしても、住民側が感情的に反対し続け、同意書を絶対に書いてくれない」という泥沼の状況です。

「住民の同意書が提出できなければ、都道府県知事から許可は下りないのだろうか」

「同意が得られない以上、多大な投資を行った事業計画をすべて諦めなければならないのか」

このように頭を抱える経営者や実務担当者の方は非常に多いのが実情です。

本コラムでは、廃棄物処理法(以下「廃掃法」)の基本的な許可基準を整理した上で、「地元住民の同意」を求める行政指導に一体どこまでの法的拘束力があるのか、そして同意が得られない場合に事業者としてどのように法的・実務的に対処すべきなのかを、自治体側の違法な対応に対して損害賠償が認められた重要な判例(近江八幡市最終処分場事件)を交えて詳しく解説します。

廃棄物処理法が定める「許可」の二重構造と、住民同意の「不在」

まず、法律上の原則を正しく把握するために、廃補法がどのような許可基準を設けているのかを確認してみましょう。

産業廃棄物に関する許可制度は、大きく分けて「産業廃棄物処理業(収集・運搬・処分)の許可」と、「産業廃棄物処理施設の設置許可」の二つが存在します。

産業廃棄物処理業の許可基準

事業として他社から委託を受けて産業廃棄物の「収集・運搬」を行う場合は廃掃法第14条第1項、そして「処分」を行う場合は同法第14条第6項に基づき、管轄する都道府県知事(保健所設置市の場合は市長)の許可を得なければなりません。

それぞれの許可基準は、同法第14条第5項(収集・運搬)および同条第10項(処分)に厳格に定められています。

その基準は大きく分けて以下の2点に集約されます。

①その事業を的確に、かつ、継続して行うに足りる施設や申請者の「能力(技術的能力・経理的基礎)」が環境省令で定める基準に適合していること。
②申請者が「欠格事由」(暴力団関係者でないこと、過去に一定の刑罰や取消処分を受けてから5年を経過していないことなど)に該当しないこと。

産業廃棄物処理施設の設置許可基準

一方で、一定の規模以上の焼却施設や最終処分場などの「産業廃棄物処理施設」を自ら設置しようとする場合は、処理業の許可とは別に、廃掃法第15条第1項に基づき、設置場所を管轄する都道府県知事の設置許可を得る必要があります。

その許可基準は同法第15条の2第1項に定められており、概要は以下の通りです。

① 施設の設置計画が環境省令で定める技術上の基準に適合していること。
② 施設の設置・維持管理に関する計画が、周辺地域の生活環境の保全、および周辺の施設について「適正な配慮」がなされたものであること。
③ 申請者が的確かつ継続的に設置・維持管理を行うに足りる能力を有していること。
④ 申請者が欠格事由に該当しないこと。

ここで非常に重要なポイントがあります。

上記の廃掃法に定められた膨大かつ厳格な許可基準をどれだけ隅々まで読み込んでも、「周辺住民の同意を得ていること」や「地元自治会の同意書を添付すること」という要件は一切存在しないということです。

つまり、国の定めた法律である廃掃法上は、住民の同意書がなくても、法的な要件をすべて満たしていれば、都道府県知事は許可を出さなければならないというのが大前提なのです。

なぜ自治体は「住民同意」を求めるのか?「指導要綱」と「行政指導」の正体

法律上は住民同意が不要であるにもかかわらず、なぜ現実の申請現場では、自治体の窓口で「住民の同意書をもらってきてください」と執拗に求められるのでしょうか。

その答えは、自治体が独自に策定している「指導要綱」と、それに基づく「行政指導」にあります。

多くの自治体では、地域の生活環境を保全し、無用な紛争を避けるための「内規(行政内部のルール)」として指導要綱を定めており、その中で住民への説明会実施や同意書の取得を義務付けています。

そして、この要綱に従うよう事業者に求める行為は、法律上は「行政指導」に分類されます。

「行政指導」とは一体何でしょうか。総務省の行政手続法Q&Aによる説明を引用すると、次のように定義されています。

「行政指導とは、役所が、特定の人や事業者などに対して、ある行為を行うように(又は行わないように)具体的に求める行為(指導、勧告、助言など)をいいます。行政指導は処分ではないので、特定の人や事業者の権利や義務に直接具体的な影響を及ぼすことはありません。」

このように、行政指導の本質は「役所から相手方に対する『お願い』」にすぎません。

行政手続法(地方自治体の場合は行政手続条例など)においても、行政指導はあくまで相手方の任意の協力によってのみ実現されるべきものであり、行政指導に協力しないからといって、不利益な取り扱いをすることは禁止されています。

したがって、廃掃法上の要件をクリアしている申請者に対して、「行政指導である指導要綱の住民同意が得られないから」というだけの理由で、都道府県知事が許可を拒否(不許可処分)することは、法律上明らかに「違法」となります。

住民の同意が得られない場合は「違法」?判例に見る行政指導の法的限界

それでは、行政指導に従って誠実に地元住民との話し合いを重ねたものの、一部の住民や自治会が頑なに反対し、どうしても同意書が得られない場合はどうすればよいのでしょうか。

この問題における極めて重要なリーディングケースが、「近江八幡市最終処分場事件(大阪高判平成16年5月28日)」です。

【事案の概要】

産業廃棄物処理業者であるX社は、滋賀県知事に対し、廃掃法に基づき産業廃棄物処分業(中間処理業・焼却施設の設置等)の許可申請を行いました。

滋賀県には独自の取扱要領があり、許可申請に先立つ事前審査の段階で、「地元自治会の同意書」または「公害防止協協定書」の提出を求めていました。

X社は県のこの行政指導に応じ、自治会の同意を得るべく、説明会の開催や個別交渉など多大な努力を重ねました。しかし、地元自治会側の頑固な反対により、客観的に見て合意を得ることは不可能な状況に陥ってしまいました。

そこでX社は、平成9年11月5日、滋賀県知事に対し、「これ以上行政指導に協力することは困難であるため、速やかに事前審査を終え、本申請に対する許可・不許可の正式な判断を下してほしい」という旨の「苦情申出(不協力表明)」を行いました。

ところが、滋賀県知事および担当職員はその後も「同意書が提出されない限り、事前審査を進められない」として行政指導を継続し、許可申請に対する判断を何年も留保し続けました。最終的に、県はX社の事前審査願書一式を返却するに至りました。

中間処理事業の開始を断念せざるを得なくなったX社は、すでに投入していた焼却炉の設置費用や、得られるはずだった営業利益を失うという甚大な損害を被りました。そこでX社は、滋賀県の対応は違法な行政指導の強要であるとして、国家賠償法に基づく損害賠償請求訴訟を提起したのです。

【裁判所の画期的な判断基準】

大阪高等裁判所は、自治体が行う住民同意の行政指導について、以下のようにその限界を明確に示しました。

まず、住民同意の取得を求めること自体については、

「産業廃棄物処理業を円滑に実施するため、地元住民の理解と協力を得、これを証するものとして上記同意書等の提出を求めたものであるから、強制にわたるなど、事業者の任意性を損なうことがない限り、違法ということはできない。」

として、任意の協力を求める範囲内であれば行政指導として許容されるとしました。

しかし、その後に続く判断が重要です。

「控訴人(X社)は、被控訴人(滋賀県)の職員の行政指導に従い、同意等を得るべく真摯に努力した後、これを得ることが実際上困難であると考えられた後、本件苦情申出(不協力表明)をした」

「そうすると、その後は、知事において、本件許可申請に対し、法に定める要件を満たしているかどうかを審査した上、許可するかどうかを判断する義務があったというべきである」

「しかるに、被控訴人が控訴人に対して同意書等の徴求を求め続け、これの提出がないとして、事前審査を終了させず、本件許可申請に対する判断を留保したことは、控訴人に対し、同意書等の提出を事実上強制しようとしたものということができ、違法な措置であったといわざるをえない。」

このように裁判所は、事業者が誠実に努力した上で「もう協力できない」と明確に意思表示した後は、自治体は行政指導を直ちに打ち切り、廃掃法に定められた基準のみに基づいて許可・不許可を判断する義務があると断じました。

合意書がないことを理由に審査をストップさせ、事実上同意書の提出を強制した滋賀県の行為は、「行政指導の限界を超えた違法な公権力の行使」であると厳しく認定されたのです。

この判決により、滋賀県にはX社が被った多額の損害について、賠償義務が認められることとなりました。

事業者が取るべき実務上の対策:行政の「引き延ばし」に対抗するために

この近江八幡市の判例は、現在もなお、住民反対に直面する多くの廃棄物事業者にとって強力な武器となっています。

もし、自社が自治体の「住民同意書がないと受け付けない」という壁にぶつかった場合、実務上はどのようなステップを踏んで対処すべきでしょうか。

ステップ1:まずは「真摯な努力」を尽くし、客観的な証拠を残す

判例でも重視されたように、最初から「法律上不要だから同意は取らない」と突っぱねる態度は極めて危険です。自治体側も、周辺環境や紛争防止への「適正な配慮」という観点から、説明会の開催などを指導する正当な動機があるからです。

まずは行政指導に従い、説明会を複数回開催し、議事録や配布資料をしっかりと作成して、反対派住民に対しても誠実に丁寧な説明を尽くしたという実績(客観的な証拠)を積み上げることが極めて重要です。

ステップ2:合意形成の「不可能性」が明らかになった段階を見極める

量や安全対策等の妥協案も提示したにもかかわらず、一部の反対派が「とにかく絶対反対」の一点張りで、これ以上の進展が見込めない状態(実際上、同意取得が不可能である状態)に達したかどうかを冷静に見極めます。

ステップ3:書面による明確な「行政指導への不協力表明」を行う

これ以上の交渉が不毛であると判断された段階で、自治体に対し、書面(苦情申出書や上申書など)を提出します。

その書面には、以下の項目を論理的かつ明確に記載して提出します。これにより、自治体は「これ以上の引き延ばしが違法となる」という強いプレッシャーを受けることになります。

「これまでに〇回に及ぶ住民説明会を開催し、最大限の誠意を持って合意形成に努めてきた事実」

「それにもかかわらず、一部住民の強固な反対により同意書の取得は実際上極めて困難であること」

「よって、今後はこれ以上の行政指導(同意書取得)への協力は辞退し、速やかに法定の要件に基づく審査を進め、処分(許可・不許可の決定)を下すよう求めること」

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この記事を書いた弁護士:弁護士 平栗丈嗣

廃棄物処理法

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所所属、埼玉弁護士会所属の弁護士。令和2年登録。化学品メーカーでの勤務経験を有し、環境法関連業務や廃棄物対応の実務に直接携わってきた実績を持つ。甲種危険物取扱者の資格も保持し、化学物質や産業廃棄物に関する専門的知見に明るい。現場の運用フローや企業の内部事情を熟知している強みを最大限に活かし、法令遵守と現場実務のバランスを取った実践的な解決策の提案に注力している。