
こんにちは。弁護士法人グリーンリーフ法律事務所の弁護士 渡邉千晃です。
ECサイトやSNSの「口コミ」は、いまや購買を左右する最強のマーケティングツールです。しかし、その口コミを人為的に操作する行為には、見落とされがちな法的リスクが潜んでいます。2026年6月、公正取引委員会の調査に基づき、消費者庁がステルスマーケティングを理由に健康食品販売会社へ措置命令を出した事例が報じられました。表示規制である景品表示法違反はもちろん、自社の評価を偽装したり、競合の評判を不当に貶めたりする行為は、独占禁止法が禁じる「不公正な取引方法」にも該当し得ます。
口コミ施策と競合対応に潜む二重のリスクを、弁護士が解説します。
「良い評判」を演出する行為に潜む二重のリスク

ECサイトのレビュー欄やSNSの投稿は、消費者の購買行動を直接左右する強力な情報源です。そのため、インフルエンサーに商品を提供して好意的な投稿を依頼したり、自社サイトに好意的な口コミを転載したりする施策は、今や広報・マーケティング活動の定番となっているかと思います。
しかし、2026年6月29日、消費者庁は神戸市の健康食品販売会社に対し、景品表示法に基づく措置命令を行いました。調査を担当したのは、同庁から委任を受けた公正取引委員会とのことです。報道によれば、同社はイメージモデルらに商品を無償提供してSNSへの投稿を依頼し、投稿の中から「依頼されたものだと分かる部分」を切り取って自社サイトに転載したうえ、「SNSで大人気!」などと表示していたようです。
モデル自身の投稿には依頼の事実が記載されていたにもかかわらず、転載した自社サイト側でその事実を示さなかった点が、景品表示法が禁じる「ステルスマーケティング」と認定されたと考えられます。
この事例では、当然、景品表示法上の表示規制が問題となり得ますが、それと同時に、独占禁止法上の「不公正な取引方法」という、見落としがちなもう一つの法的リスクも存在するものと思われます。
口コミ操作が独禁法違反となる2つのパターン

1:自社の評価を偽装する行為=「ぎまん的顧客誘引」
独占禁止法が指定する「不公正な取引方法」(一般指定第8項)は、次の行為を禁じています。
「自己の供給する商品又は役務の内容又は取引条件その他これらの取引に関する事項について、実際のもの又は競争者に係るものよりも著しく優良又は有利であると顧客に誤認させることにより、競争者の顧客を自己と取引するように不当に誘引すること」(独占禁止法第2条第9項第6号、一般指定第8項)
自社の商品について、実際には存在しない人気や効果があるかのように装う「やらせレビュー」や「サクラレビュー」は、競合他社の顧客を不当に奪う行為として、この「ぎまん的顧客誘引」に該当する可能性があると考えられます。
なお、景品表示法が「表示」そのものの適正さを問題にするのに対し、独占禁止法は、その行為が市場における公正な競争に与える影響に着目する点に違いがあります。
2:競合の評判を不当に貶める行為=「競争者に対する取引妨害」
逆に、競合他社を標的とする行為にも注意が必要です。一般指定第14項は、次のように定めています。
「自己又は自己が株主若しくは役員である会社と国内において競争関係にある他の事業者とその取引の相手方との取引について、契約の成立の阻止、契約の不履行の誘引その他いかなる方法をもつてするかを問わず、その取引を不当に妨害すること」(独占禁止法第2条第9項第6号、一般指定第14項)
組織的に競合製品へ低評価レビューを投稿する行為や、虚偽の通報を繰り返して競合のレビューやECアカウントの停止・削除を狙う行為は、「競争者に対する取引妨害」として独占禁止法違反となり得ると考えられます。
景品表示法との関係

2023年10月に施行された景品表示法のステルスマーケティング規制(指定告示)により、広告であることを明示しない表示は「優良誤認表示」、「有利誤認表示」と並ぶ規制対象となりました。前記の健康食品会社の事例は、この規制に基づくものと考えられます。
景品表示法は「表示」の適正さそのものを問題にし、消費者庁(事案によっては公正取引委員会に調査が委任される)が執行を担います。これに対し独占禁止法は、その行為が「競争」にどのような歪みを生じさせるかという観点から規制します。同じ口コミ操作であっても、景品表示法違反の有無とは別に、独占禁止法上の不公正な取引方法に該当するかどうかを、並行して検討する必要があるといえます。
まとめ

口コミは企業にとって強力なマーケティングツールである一方、その操作は景品表示法と独占禁止法という二つの法律から同時に問題となり得ます。
デジタル上の評判管理がますます重要になる昨今、正しいルールの下で信頼を積み上げる体制づくりが、企業の持続的な成長を支えると言えます。
グリーンリーフ法律事務所は、設立以来35年の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。
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この記事を書いた弁護士:弁護士 渡邉千晃
独占禁止法
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所所属、埼玉弁護士会所属の弁護士。法科大学院において、独占禁止法を専攻し知見を深める。令和4年登録後、顧問会社からの独占禁止法に関する多数の相談に応じる。公正取引委員会の指針や審決例を熟知し、優越的地位の濫用や再販売価格維持などといった現場特有のリスクに対し、理論と実務の両面から即効性のある提言を行う。経営戦略と法遵守を両立させる専門家であることを身上とする。






